[T6-P-20] Construction and utilization of a 3D digital outcrop model on the analysis for internal structure of the lower Miocene Inamura subaqueous landslide deposit, Kamiichi-machi, Toyama Prefecture, central Japan
※発表者変更:荒戸 裕之→保柳 康一
Keywords:submarine landslide, landslide tsunami, INAMURA subaqueous landslide deposits, 3D digital outcrop model
1.はじめに
発表者らは海底地すべりの発生メカニズムを堆積学的に理解し運動学的なモデルを構築することを目的に研究を進めている[1, 2, 3].この過程で,一般的な地質調査に加えて三次元デジタル露頭モデル等を活用した地質解析を実施し,地すべり堆積体の多様で複雑な内部変形構造と滑動様式を検討したので,その概要を報告する.
2.手法
(1) 準備作業:富山県上市町稲村露頭の調査に先立ち,作業員および重機を導入して,灌木や下草類の伐採と露頭前面下部の崖錐被覆堆積物の除去を実施した.
(2) 地質調査:露頭下部の地表付近については,一般的な岩相層序調査ならびに堆積相解析を実施した。詳細な堆積構造および変形構造を観察するため,グラインダー等を用いて一部露頭面の研磨を行なった.露頭高所については高所作業車を用いて近接し,岩相層序および堆積相の解析を行なった.
(3) 空中写真撮影:ドローンを用いて,鉛直上空からのシリーズ画像および各露頭面に直角の斜めシリーズ画像をオーバーラップ率が85%以上になるように撮影した.
(4) 三次元テクスチャーモデル製作と解釈への活用:ドローン空撮のシリーズ画像を三次元モデリングソフトウェア「pix4Dmapper」に取り込んで三次元デジタル露頭モデルを製作し,これを用いてより確度の高い地層対比や構造解釈を行なった.
3.結果
(1) 層序・岩相・地質構造:稲村露頭に分布する地層は,下部中新統福平層折戸凝灰岩部層の凝灰岩,凝灰角礫岩および凝灰質砂岩泥岩互層である[4].互層中の泥岩にはまれに大型植物の葉片化石が含まれるが,年代決定に資する微化石あるいは大型化石は検出されていない.分布する地層は,岩相の特徴に基づき,下位からA~Gの7ユニット(A, E〜G:凝灰岩および凝灰角礫岩,B〜D:凝灰質砂岩泥岩互層)に区分される.互層中の泥岩層には,大小の生痕化石が認められる.露頭の範囲全体としては約25度の北傾斜で,大局的には安定した地質構造をもつ.
(2) ユニットDの変形様式:同層は内部に顕著なスランプや撓曲,低角逆断層などの変形構造を有し,概ね10〜15m程度の層厚を有する.これらの変形構造は,層内の逆断層を境にした北側のみで観察され,逆断層の南側では下位のユニットB, Cと調和的で安定した走向傾斜をもつ.内部変形構造の観察されないユニットDの層厚は約5mである.
(3) ユニットDの鍵層追跡:同層の互層は,堆積学的特徴の異なる8層(便宜的に下位からD1〜8と仮称)の凝灰質砂岩鍵層と挟材する凝灰質泥岩層の繰り返しからなる.凝灰質砂岩層の層厚はそれぞれ15〜55cm程度で,基底部の極粗粒から細粒へ上方細粒化し凝灰質泥岩層へ漸移する.凝灰質泥岩層は,見かけ上,10〜55cm程度の層厚をもつ.露頭北部の同層は,南方向への滑動により布団を畳むように折り曲げられ,褶曲軸面付近に形成される低角逆断層によって上盤側が下流へ変位して,8層全体ないしその一部,ならびに逆転した一部が繰り返すことによって層厚を増している.
(4) 地すべりの滑動モデル:以上の特徴から,これらの変形構造はユニットD堆積後の早い時期に北方から南方へ向かう当時の斜面下方へ同層が滑動し,層内の逆断層を先端としてそれより上流側が滑動方向に短縮したことによって形成されたものと解釈される.それらの変形が形成される過程は,1) ユニットDはある場所から上流側が基底面を境として滑動し,滑動しないユニットDに乗り上げる, 2) その過程で横臥褶曲を作るが,3) 活動による短縮量が褶曲で解消しきれなくなるとすべり面が上位へ分岐しさらに乗り上げていく,4) こうした変形がオーバーステップ状に上流側へ波及することでユニットD, Eの変形が累積し成長する,と解釈される.
4.まとめ
稲村露頭では,地質時代の水中地すべり堆積体の可視的な最小単位の変形構造を観察することができた.これらの空間的な位置および姿勢を詳細に記載するとともに,すべり面,低角逆断層面の物性を観察することで,その運動学的モデルを導出することができる.
謝辞:英修興産有限会社,立山黒部ジオパーク協会の諸氏,有限会社きんた,鉄建建設株式会社に心より感謝する.なお,当該研究には日本学術振興会科学研究費(19H02397)の一部を使用した.
文献:[1] 荒戸, 2018, 地質学会講演要旨, 110., [2] 荒戸, 2022, 石技誌, 87, 136-146., [3] 荒戸ほか, 2023, 堆積学会講演要旨, 9-10., [4] 金子, 2001, 地質雑, 107, 729-748.
発表者らは海底地すべりの発生メカニズムを堆積学的に理解し運動学的なモデルを構築することを目的に研究を進めている[1, 2, 3].この過程で,一般的な地質調査に加えて三次元デジタル露頭モデル等を活用した地質解析を実施し,地すべり堆積体の多様で複雑な内部変形構造と滑動様式を検討したので,その概要を報告する.
2.手法
(1) 準備作業:富山県上市町稲村露頭の調査に先立ち,作業員および重機を導入して,灌木や下草類の伐採と露頭前面下部の崖錐被覆堆積物の除去を実施した.
(2) 地質調査:露頭下部の地表付近については,一般的な岩相層序調査ならびに堆積相解析を実施した。詳細な堆積構造および変形構造を観察するため,グラインダー等を用いて一部露頭面の研磨を行なった.露頭高所については高所作業車を用いて近接し,岩相層序および堆積相の解析を行なった.
(3) 空中写真撮影:ドローンを用いて,鉛直上空からのシリーズ画像および各露頭面に直角の斜めシリーズ画像をオーバーラップ率が85%以上になるように撮影した.
(4) 三次元テクスチャーモデル製作と解釈への活用:ドローン空撮のシリーズ画像を三次元モデリングソフトウェア「pix4Dmapper」に取り込んで三次元デジタル露頭モデルを製作し,これを用いてより確度の高い地層対比や構造解釈を行なった.
3.結果
(1) 層序・岩相・地質構造:稲村露頭に分布する地層は,下部中新統福平層折戸凝灰岩部層の凝灰岩,凝灰角礫岩および凝灰質砂岩泥岩互層である[4].互層中の泥岩にはまれに大型植物の葉片化石が含まれるが,年代決定に資する微化石あるいは大型化石は検出されていない.分布する地層は,岩相の特徴に基づき,下位からA~Gの7ユニット(A, E〜G:凝灰岩および凝灰角礫岩,B〜D:凝灰質砂岩泥岩互層)に区分される.互層中の泥岩層には,大小の生痕化石が認められる.露頭の範囲全体としては約25度の北傾斜で,大局的には安定した地質構造をもつ.
(2) ユニットDの変形様式:同層は内部に顕著なスランプや撓曲,低角逆断層などの変形構造を有し,概ね10〜15m程度の層厚を有する.これらの変形構造は,層内の逆断層を境にした北側のみで観察され,逆断層の南側では下位のユニットB, Cと調和的で安定した走向傾斜をもつ.内部変形構造の観察されないユニットDの層厚は約5mである.
(3) ユニットDの鍵層追跡:同層の互層は,堆積学的特徴の異なる8層(便宜的に下位からD1〜8と仮称)の凝灰質砂岩鍵層と挟材する凝灰質泥岩層の繰り返しからなる.凝灰質砂岩層の層厚はそれぞれ15〜55cm程度で,基底部の極粗粒から細粒へ上方細粒化し凝灰質泥岩層へ漸移する.凝灰質泥岩層は,見かけ上,10〜55cm程度の層厚をもつ.露頭北部の同層は,南方向への滑動により布団を畳むように折り曲げられ,褶曲軸面付近に形成される低角逆断層によって上盤側が下流へ変位して,8層全体ないしその一部,ならびに逆転した一部が繰り返すことによって層厚を増している.
(4) 地すべりの滑動モデル:以上の特徴から,これらの変形構造はユニットD堆積後の早い時期に北方から南方へ向かう当時の斜面下方へ同層が滑動し,層内の逆断層を先端としてそれより上流側が滑動方向に短縮したことによって形成されたものと解釈される.それらの変形が形成される過程は,1) ユニットDはある場所から上流側が基底面を境として滑動し,滑動しないユニットDに乗り上げる, 2) その過程で横臥褶曲を作るが,3) 活動による短縮量が褶曲で解消しきれなくなるとすべり面が上位へ分岐しさらに乗り上げていく,4) こうした変形がオーバーステップ状に上流側へ波及することでユニットD, Eの変形が累積し成長する,と解釈される.
4.まとめ
稲村露頭では,地質時代の水中地すべり堆積体の可視的な最小単位の変形構造を観察することができた.これらの空間的な位置および姿勢を詳細に記載するとともに,すべり面,低角逆断層面の物性を観察することで,その運動学的モデルを導出することができる.
謝辞:英修興産有限会社,立山黒部ジオパーク協会の諸氏,有限会社きんた,鉄建建設株式会社に心より感謝する.なお,当該研究には日本学術振興会科学研究費(19H02397)の一部を使用した.
文献:[1] 荒戸, 2018, 地質学会講演要旨, 110., [2] 荒戸, 2022, 石技誌, 87, 136-146., [3] 荒戸ほか, 2023, 堆積学会講演要旨, 9-10., [4] 金子, 2001, 地質雑, 107, 729-748.