[T12-P-14] (entry) Benthic foraminiferal assemblages of the upper part of the Kiwada Formation in the Kazusa Group, and early Pleistocene deep-sea environments in the Kazusa forearc basin
Keywords:Paleoceanographic environment, Benthic foraminifera, Kiwada Formation, Kazusa Group, Early Pleistocene, Boso peninsula
上総層群は,房総半島中部に広く分布する下部・中部更新統であり,かつて房総半島周辺に存在した上総海盆を充填した前弧海盆堆積物である(e.g., 渡部ほか,1987).岩相の違いに基づくと,本層群は23の累層に区分される.一般に,上総層群の各層では,浅い海域から深い海域の堆積相までが観察され,沿岸から深海に至る様々な堆積場が推定されている(e.g., Katsura, 1984).これらのような様々な環境の堆積相を連続的に観察できること,多数のテフラ鍵層が挟在すること,微化石を豊富に含むことなどから,上総層群では様々な層序学的研究が行われてきた(e.g., 里口,1995; Oda, 1977).また,上総海盆がかつて位置していたとされる房総半島沖は,北太平洋の大きな海洋循環である黒潮と親潮が会合する海域の一部であることから,その変化は北太平洋域の気候変動と関連している.そのため,上総層群は北太平洋における過去の気候変動を考察する有用な地質学的記録と言える.本研究では上総層群のうち,黄和田層を研究対象とし,同層上部のテフラ鍵層kd8から最上部にかけての層準を取り扱った.同層群は,Kuwano et al. (2021, 2022)によって1310–1204 kaにかけての高精度な年代モデルの確立と海洋表層の環境復元が行われており,海洋底層の環境を検討することで,より詳細な海洋環境の復元ができると期待される.そこで本研究では,黄和田層のkd8テフラ鍵層から同層最上部から産出する75 µm以上の底生有孔虫化石群集を検討し,1310–1204 kaにおける海洋底層環境の変化を復元することを目的とした.
結果,全検討層準でGlobocassidulina 属,Cassidulina 属,Pseudoparella naraensisが多産した.次いで,Bolivina属,Bulimina属,Cassidulinoides属,Cibicides属, Elphidium 属,Fissurina属が多産したほか,Stilostomella属などが連続的に産出した.産出の特徴として,連続的に多産する分類群は周期的に増減し,上位層準ではBolivina robusta,Bulimina aculeata,Cassidulina norcrossi,Cassidulina delicataが,中位の層準ではBulimina striata,Bulimina rostrata,Melonis pompilioides,Oridorsalis umbonatusが多産する傾向が見られた.またP. naraensisに限っては周期的な変動に加え,特徴的に多産する層準があった.
上総層群は遠洋性堆積物と違い,活動的大陸縁辺域で形成された砕屑性堆積物であることから,堆積物供給量の変動が予想される.酸素同位体比から推定される堆積速度(Kuwano et al., 2021)と1 gあたりの底生有孔虫化石の総産出個体数は相反する傾向がある.よって,堆積物供給速度が大きい時期は含まれる底生有孔虫化石が希釈され,定量試料中における個体数が減少したと考えられる.また,低海水準期から高海水準期への転換期に堆積速度が増加する傾向があるが,流れ込みを示唆する浅海性の分類群の産出とは明らかな関連は見られなかった.これは,黄和田層の堆積場が海水準変動による流れ込みの影響を受けにくいと考えられる斜面基底部や深海平坦面であることと整合的である.これを踏まえた上で,検討層準は,黒潮域の底層に見られる分類群の卓越と,分布水深が約1000–2000 mの中部漸深海帯とされるStilostomella属の連続的な産出から,現在の黒潮域底層に類似した水深約1000–2000 mの中部漸深海帯に相当すると考えられる.また,各分類群の餌や溶存酸素に対する嗜好性・耐性,Kuwano et al. (2021, 2022)との比較から,一部の群集変化は親潮や表層の生産性に関連すると考えられる.
Katsura, Y., Sci. Rep., Inst. Geosci. Univ. Tsukuba, Sec. B, 5, 69–104, 1984.
Kuwano et al., Stratigraphy, 18(2), 103-121, 2021.
Kuwano et al., Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 592, 110873, 2022.
Oda, M., Tohoku Univ. Sci. Rep. 2nd Ser., Geol, 48, 1–76, 1977.
里口保文,地質学雑誌, 101, 767–782, 1995.
渡部ほか,地学教育,40, 1–12, 1987.
結果,全検討層準でGlobocassidulina 属,Cassidulina 属,Pseudoparella naraensisが多産した.次いで,Bolivina属,Bulimina属,Cassidulinoides属,Cibicides属, Elphidium 属,Fissurina属が多産したほか,Stilostomella属などが連続的に産出した.産出の特徴として,連続的に多産する分類群は周期的に増減し,上位層準ではBolivina robusta,Bulimina aculeata,Cassidulina norcrossi,Cassidulina delicataが,中位の層準ではBulimina striata,Bulimina rostrata,Melonis pompilioides,Oridorsalis umbonatusが多産する傾向が見られた.またP. naraensisに限っては周期的な変動に加え,特徴的に多産する層準があった.
上総層群は遠洋性堆積物と違い,活動的大陸縁辺域で形成された砕屑性堆積物であることから,堆積物供給量の変動が予想される.酸素同位体比から推定される堆積速度(Kuwano et al., 2021)と1 gあたりの底生有孔虫化石の総産出個体数は相反する傾向がある.よって,堆積物供給速度が大きい時期は含まれる底生有孔虫化石が希釈され,定量試料中における個体数が減少したと考えられる.また,低海水準期から高海水準期への転換期に堆積速度が増加する傾向があるが,流れ込みを示唆する浅海性の分類群の産出とは明らかな関連は見られなかった.これは,黄和田層の堆積場が海水準変動による流れ込みの影響を受けにくいと考えられる斜面基底部や深海平坦面であることと整合的である.これを踏まえた上で,検討層準は,黒潮域の底層に見られる分類群の卓越と,分布水深が約1000–2000 mの中部漸深海帯とされるStilostomella属の連続的な産出から,現在の黒潮域底層に類似した水深約1000–2000 mの中部漸深海帯に相当すると考えられる.また,各分類群の餌や溶存酸素に対する嗜好性・耐性,Kuwano et al. (2021, 2022)との比較から,一部の群集変化は親潮や表層の生産性に関連すると考えられる.
Katsura, Y., Sci. Rep., Inst. Geosci. Univ. Tsukuba, Sec. B, 5, 69–104, 1984.
Kuwano et al., Stratigraphy, 18(2), 103-121, 2021.
Kuwano et al., Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 592, 110873, 2022.
Oda, M., Tohoku Univ. Sci. Rep. 2nd Ser., Geol, 48, 1–76, 1977.
里口保文,地質学雑誌, 101, 767–782, 1995.
渡部ほか,地学教育,40, 1–12, 1987.