[T13-P-10] The relationship between the basal weak layer and the development of the décollement in the Coulomb wedge
南海付加体の室戸沖では変形フロント前縁で弾性波特性が急変することが指摘されており,これは粘土鉱物の脱水によりデコルマに相当する層順において間隙流体圧が上昇することの影響だと考えられており(Tsuji et al., 2005).プロトデコルマをとらえたものであると解釈されている Yamada et al. (2014) .またDotare et al. (2016)では乾燥砂を用いたアナログモデル実験によりプロトスラストの伝播を非常に高い時空間分解能で解析し,プロトスラスト発達時には一定期間,微小なせん断帯が観察されることを報告している.ただし,付加ウェッジが発達している天然のプレート収束帯において,どこでもプロトデコルマが観察されているわけではない.そこで本研究では,プロトデコルマの形成条件を議論するため,初期層の摩擦強度プロファイルがデコルマの伝播過程に及ぼす影響をX線CTスキャン(XCT)とデジタル画像相関法(DIC)を用いた模型実験の観察により検討した.
本研究では表面が粘着するカッティングシートを底面に用いた.アクリル製の箱(118 mm×693 mm×158 mm)に強度の強い豊浦硅砂と強度の低いマイクロビーズからなる地層模型を製作し,これを変形させる実験を行った.実験の初期条件は基底部低強度モデルと基底部高強度モデルの二種類とした.基底部高強度モデルは22mm全てが豊浦硅砂からなり,基底部低強度モデルは厚さ10mmのマイクロビーズ層を用意し,上に12mmの豊浦硅砂を敷き詰めたモデルである.実験装置及び砂体の内部構造をXCTで撮影し,X線の減衰率よりモデル内部の密度分布を得た.XCT画像を一定の時間に対し定期的に撮影することでXCT画像の時系列データを作成した.時系列変化より,XCT画像上での特徴から新規のデコルマが伝播する1つのサイクルをStage A〜Cの三段階に区分した.具体的には,Stage A:旧デコルマ及び旧フロンタルスラストのみが観察される期間,Stage B:底部の低CT値領域が観察される期間,Stage C:新規フロンタルスラストが出現する期間である.
強度が異なる基底層を用意した実験結果を比較すると,デコルマ伝播サイクルに占めるStage A〜Cの期間の割合に関して,基底部低強度モデルではStage AからCまでそれぞれ64%,32%,4%であったのに対して,基底部高強度モデルでは90%,5%,5%であった.よって基底部低強度モデルの場合はStageBが長くなり,基底部高強度モデルはStage Aが伝播サイクルのほとんどを占めることがわかった.
上記の二種類の実験条件について,DICを併用した実験も行った.DICは撮影された画像のピクセル輝度値の数値解析から視野内の変位やひずみ分布を計測する手法であり,CTよりも高い時間解像度での観察が可能であるため,CTで得た解釈を詳細に議論することが可能である.本研究では模型の側面から画像を撮影し,これをDIC解析によって,撮影画像における砂層の鉛直変位の時系列データを得た.ここではCTと同じステージに相当するものを以下の変形から読み取り,記載を行った.具体的には,StageA:旧スラスト部が隆起する期間,StageB:前縁が間欠的に隆起する期間,StageC:前縁が安定的に隆起する期間,とした.時系列変化を比較すると,基底部低強度モデル ではStage AからCまでそれぞれ72%,24%,4%であった.一方で基底部高強度モデルでは89%,4%,7%であった.
本実験で見られたStage Bは,先行研究の解釈から,プロトデコルマが活動する期間ともいえる.つまり本研究の結果から,基底部の強度の違いにより,プロトデコルマの活動期間に違いがあることを示唆する.基底部高強度条件の際にはプロトデコルマはほとんど存在せずに,極めて短期間で新しいフロンタルスラストができる.天然のプレート収束帯に見られる付加体においてプロトデコルマが観察される地域が限られているのはこのような基底部強度の違いがデコルマの伝播過程に影響を与えることに起因していることが考えられる.今後は弱層と母岩のピーク強度やひずみ弱化率などの摩擦特性のより詳細な部分とデコルマ伝播過程との関係性の検討が必要である.
参考文献
Dotare et al. (2016) Tectonophysics, 684 Tsuji et al. (2005) Geophysical Resarch Letters, 32 Yamada et al. (2014) Marine and Petroleum Geology, 51
本研究では表面が粘着するカッティングシートを底面に用いた.アクリル製の箱(118 mm×693 mm×158 mm)に強度の強い豊浦硅砂と強度の低いマイクロビーズからなる地層模型を製作し,これを変形させる実験を行った.実験の初期条件は基底部低強度モデルと基底部高強度モデルの二種類とした.基底部高強度モデルは22mm全てが豊浦硅砂からなり,基底部低強度モデルは厚さ10mmのマイクロビーズ層を用意し,上に12mmの豊浦硅砂を敷き詰めたモデルである.実験装置及び砂体の内部構造をXCTで撮影し,X線の減衰率よりモデル内部の密度分布を得た.XCT画像を一定の時間に対し定期的に撮影することでXCT画像の時系列データを作成した.時系列変化より,XCT画像上での特徴から新規のデコルマが伝播する1つのサイクルをStage A〜Cの三段階に区分した.具体的には,Stage A:旧デコルマ及び旧フロンタルスラストのみが観察される期間,Stage B:底部の低CT値領域が観察される期間,Stage C:新規フロンタルスラストが出現する期間である.
強度が異なる基底層を用意した実験結果を比較すると,デコルマ伝播サイクルに占めるStage A〜Cの期間の割合に関して,基底部低強度モデルではStage AからCまでそれぞれ64%,32%,4%であったのに対して,基底部高強度モデルでは90%,5%,5%であった.よって基底部低強度モデルの場合はStageBが長くなり,基底部高強度モデルはStage Aが伝播サイクルのほとんどを占めることがわかった.
上記の二種類の実験条件について,DICを併用した実験も行った.DICは撮影された画像のピクセル輝度値の数値解析から視野内の変位やひずみ分布を計測する手法であり,CTよりも高い時間解像度での観察が可能であるため,CTで得た解釈を詳細に議論することが可能である.本研究では模型の側面から画像を撮影し,これをDIC解析によって,撮影画像における砂層の鉛直変位の時系列データを得た.ここではCTと同じステージに相当するものを以下の変形から読み取り,記載を行った.具体的には,StageA:旧スラスト部が隆起する期間,StageB:前縁が間欠的に隆起する期間,StageC:前縁が安定的に隆起する期間,とした.時系列変化を比較すると,基底部低強度モデル ではStage AからCまでそれぞれ72%,24%,4%であった.一方で基底部高強度モデルでは89%,4%,7%であった.
本実験で見られたStage Bは,先行研究の解釈から,プロトデコルマが活動する期間ともいえる.つまり本研究の結果から,基底部の強度の違いにより,プロトデコルマの活動期間に違いがあることを示唆する.基底部高強度条件の際にはプロトデコルマはほとんど存在せずに,極めて短期間で新しいフロンタルスラストができる.天然のプレート収束帯に見られる付加体においてプロトデコルマが観察される地域が限られているのはこのような基底部強度の違いがデコルマの伝播過程に影響を与えることに起因していることが考えられる.今後は弱層と母岩のピーク強度やひずみ弱化率などの摩擦特性のより詳細な部分とデコルマ伝播過程との関係性の検討が必要である.
参考文献
Dotare et al. (2016) Tectonophysics, 684 Tsuji et al. (2005) Geophysical Resarch Letters, 32 Yamada et al. (2014) Marine and Petroleum Geology, 51