130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T6[Topic Session]Latest Studies in Sedimentary Geology【EDI】

[3oral201-11] T6[Topic Session]Latest Studies in Sedimentary Geology

Tue. Sep 19, 2023 8:45 AM - 12:00 PM oral room 2 (4-21, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Dan Matsumoto(AIST/GSJ)

11:00 AM - 11:15 AM

[T6-O-27] Estimation of fault parameters for 2011 Tohoku-oki tsunami by inverse analysis of tsunami deposit

*【ECS】Yasutaka IIJIMA1,2, Hajime NARUSE1, Daisuke SUGAWARA3 (1. Kyoto University, 2. INPEX CORPORATION, 3. Tohoku University)

津波を発生させた波源断層の情報を推定する事は、地震規模や津波の全体像を把握する上で重要である。2011年に発生した東北地方太平洋沖地震津波を対象とした既往研究においても、波源断層のパラメーター推定を行った例は数多く存在しており、東北地方の太平洋沿岸地域における浸水範囲を再現するような断層パラメーターを推定したり(今村ほか、2012)、沿岸や海底における時系列の波高データを再現したりするような断層パラメーターの推定が行われている(Satake et al., 2013)。これらの既往研究に共通する手法は、津波の流れに関する情報(海域・沿岸・陸上における波高、陸上の浸水範囲等)に着目し、それをよく再現するような波源断層パラメーターを、津波伝播計算を用いて推定している点である。既往研究により東北地方太平洋沖地震の断層パラメーターが詳細に復元されている一方で、津波の流れに関する情報が乏しい過去の津波を対象とする場合、既往研究の手法を直接的に用いる事は難しい。
過去に発生した津波の波源断層パラメーターを推定する場合、用いる事ができる情報源は陸上の津波堆積物のみであることが多い。そのため、津波堆積物のみから波源断層パラメーターを推定する手法を開発する事は、過去の津波規模を推定する上で重要である。津波堆積物のみから波源断層の情報を推定した既往研究として、西暦869年の貞観津波の例がある(菅原ほか、2011)ものの、計算資源量の課題により想定されうる断層パラメーターが十分網羅されていないなど、客観的・定量的比較に課題を残していた。
近年、定量的な逆解析を可能とする手法として、DNN (Deep Neural Network)と順解析を組み合わせる手法が開発された(Mitra et al., 2020)。断面1次元順解析モデルを用いて津波伝播・土砂移動計算を多数回実施し、津波の初期条件と堆積物性状の組み合わせを多数生成する。両者の関係をDNNに学習させることで逆解析モデルを構築し、沿岸における津波の水理条件推定に成功した。一方で、用いられている地形が実地形でない点、推定できるのは沿岸の水理条件のみであり波源断層の情報は推定できない点など改善されるべき点がある。
そこで本研究では、津波堆積物のみから波源断層パラメーターを復元する新しい逆解析手法を開発した。本研究では順解析モデルとして平面2次元を取り扱う事ができるDelft3D-FLOW (Deltares, 2021)を用いると共に、津波堆積物が分布する陸上域から波源断層が位置する日本海溝周辺までを含む領域の実地形を用いた。逆解析モデル開発に当たっては、断層パラメーターが良く知られている2011年東北地方太平洋沖地震津波を対象として、対象地域として仙台市七北田川右岸を選択した。波源断層の初期条件として、今村ほか(2012)による波源断層モデルの内、断層変位量を1-40m、断層幅10-200kmの範囲内で変化させた。底面堆積物の初期条件として、4粒径クラス(140、250、420、1000μm)の比率を変化させた。対象地域における津波堆積物量を順解析を多数回実施する事で計算し、初期条件と津波堆積物量との組み合わせを1300ケース生成し、これを教師データとしてDNNに学習させ逆解析モデルを構築した。学習したモデルについて、100ケースの人口データを用いたテストを行ったところ、断層パラメーターと初期粒径割合ともに、よく推定できる事が確認された。
次に、構築した逆解析モデルを2011年東北地方太平洋沖地震津波堆積物に適用した。仙台平野における津波堆積物の実測値を用いて断層パラメーターの推定を行ったところ、断層変位量は21.25m、断層幅は119.91kmという値が求められた。既存の断層モデルと比較すると合理的な値が推定されている事が確認された。推定された断層パラメーターを初期値として順解析を行ったところ、測線上における津波堆積物の層厚や、津波堆積物の平面的な分布をよく再現できる事が確認された。さらに、推定値の誤差範囲を検証するためジャックナイフ法による誤差推定を行った(Mitra et al., 2020)。断層パラメーターの推定誤差の幅を求めたところ、断層変位量については0.47m、断層幅については1.29kmに収まっている事が確認された。

引用文献
菅原ほか、2011、自然災害科学
今村ほか、2012、東北大学モデル(version1.2)
Satake et al., 2013, Bulletin of Seismological Society of America
Mitra et al., 2020, JGR Earth Surface
Deltares, 2021, Delft3D-FLOW