9:45 AM - 10:00 AM
[T9-O-4] Geological implications of the Kita-taku mafic complex to the Cretaceous Northern Kyushu batholith
Keywords:Cretaceous Northern Kyushu Batholith, Kita-taku mafic complex, Cumulate, Heat source, Sanukitic HMA
【はじめに】北東アジア大陸縁辺部にはイザナギプレートの沈み込みに関連するジュラ紀から白亜紀の火成岩類が広く発達し,火成活動やテクトニクスの研究が精力的に行われている(例えば,Kim et al., 2016, Lithos ; Yu et al., 2021, International Geology Review).中国北東部,韓半島での最近十数年の研究では地質年代学を筆頭に膨大なデータが蓄積され,様々な火成活動・テクトニクスモデルが提唱された.しかし,未だに議論の収束はなく,モデルの飽和状態となっている.飽和状態を生む要因に,北東アジア白亜紀火成活動の終着点である日本列島花崗岩バソリス(面積100km2以上の岩体)の地質学的意義の不明瞭がある.特に,白亜紀北部九州バソリスは,大陸側(北東中国,韓半島)の火成岩類と同様にイザナギプレートのユーラシア大陸への沈み込み(200-50Ma)に関連することは明確であるが(Seton et al., 2015, Geophysical Research Letters; Imaoka et al., 2014, Lithos),マグマ発生機構を含めた包括的検討は皆無で,大陸規模の火成活動に対する地質学的意義が判然としない.また,火成活動に正確な時間軸を付加することは沈み込み運動などの「現象」を捉えることに有効であるが,その現象の「原因・特徴」の解釈には曖昧さが残る.つまり,網羅的な地質年代学だけでなく,岩石学的検討を主軸とした信頼性の高い火成活動史を再構築することで,大陸規模の火成活動やテクトニクスの解析に影響力を持つことができると考えられる.そこで,本発表では,白亜紀北部九州バソリスに付随する白亜紀苦鉄質岩体である北多久苦鉄質複合岩体を研究対象とし,北部九州花崗岩バソリスの熱源や親マグマの特徴を検討する.将来的には,北東アジア白亜紀火成活動の終着点である白亜紀北部九州バソリスの包括的な火成活動の理解とその地質学的意義の明確化により,北東アジア大陸縁辺部の火成活動とテクトニクスに新たな制約条件を提示できると考えている.
【地質概要】北多久苦鉄質複合岩体が露出する佐賀県多久市天山周辺の地質は,角閃岩と蛇紋岩を母岩とし,それを貫く北多久苦鉄質複合岩体と深江花崗岩(Ms-Bt trondhjemite)および北多久苦鉄質複合岩体を貫く珪長質岩脈(Trondhjemite–Aplite)と斑状細粒閃緑岩(PFT)岩脈から構成される.北多久苦鉄質複合岩体は主に斑れい岩類からなり,集積岩相(Cumulus group:Types 1-4)と非集積岩相(Non-Cumulus group:Types 5-7)に分類され,互いに明瞭な境界を持たず,複雑な産状を示す.
【親マグマの性質】 北多久苦鉄質複合岩体中で最も未分化組成に近い岩石のCpxの組成から平衡メルト組成を計算した.その結果,算出された液組成はSanukitic 高Mg安山岩質のマグマに類似する組成を示すことが明らかとなった.また,その初生マグマが共存したマントルかんらん岩の組成はCr#>0.8が推定される.さらに,白亜紀北部九州花崗岩バソリスに点在するSanukitic 高Mg安山岩マグマ由来の岩石(高Mg閃緑岩)と比較しても類似の組成的特徴を持つ.つまり,このことは、Sanukitic 高Mg安山岩マグマが白亜紀北部九州の広範囲で実質的に活動したことを示唆している.
【熱源】北多久苦鉄質岩体に産するミグマタイトの産状からは,苦鉄質マグマを熱源とした角閃岩の部分溶融現象が考えられる.微量元素を用いたモデル計算の結果から角閃岩の部分溶融メルトとSanukitic 高Mg安山岩マグマを混合することによって北多久苦鉄質複合岩体周辺に産する花崗岩質マグマの多様性を説明することができる.そして,Sanukitic 高Mg安山岩質マグマの北部九州での空間的な広がりと北部九州花崗岩バソリス構成岩体のモデル計算から,白亜紀北部九州花崗岩バソリスを構成する花崗岩類の一部は,北多久苦鉄質複合岩体の親マグマであるSanukitic 高Mg安山岩マグマとそれを熱源とした部分溶融によって形成したanatexisメルトとの混合により形成可能である.また,Sanukitic 高Mg安山岩マグマも一般に同化作用や分化作用により高Mg閃緑岩や他の苦鉄質マグマとして上昇している.よって,白亜紀北部九州花崗岩バソリスの火成活動の熱源はSanukitic 高Mg安山岩を代表としたマグマであった可能性が高い.このような検討結果は,スラブロールバックによる引張応力場であった白亜紀北東アジア大陸縁辺部のバソリス火成活動,熱源および複雑な地殻成熟過程に新たな知見を与えると考えられる.
【地質概要】北多久苦鉄質複合岩体が露出する佐賀県多久市天山周辺の地質は,角閃岩と蛇紋岩を母岩とし,それを貫く北多久苦鉄質複合岩体と深江花崗岩(Ms-Bt trondhjemite)および北多久苦鉄質複合岩体を貫く珪長質岩脈(Trondhjemite–Aplite)と斑状細粒閃緑岩(PFT)岩脈から構成される.北多久苦鉄質複合岩体は主に斑れい岩類からなり,集積岩相(Cumulus group:Types 1-4)と非集積岩相(Non-Cumulus group:Types 5-7)に分類され,互いに明瞭な境界を持たず,複雑な産状を示す.
【親マグマの性質】 北多久苦鉄質複合岩体中で最も未分化組成に近い岩石のCpxの組成から平衡メルト組成を計算した.その結果,算出された液組成はSanukitic 高Mg安山岩質のマグマに類似する組成を示すことが明らかとなった.また,その初生マグマが共存したマントルかんらん岩の組成はCr#>0.8が推定される.さらに,白亜紀北部九州花崗岩バソリスに点在するSanukitic 高Mg安山岩マグマ由来の岩石(高Mg閃緑岩)と比較しても類似の組成的特徴を持つ.つまり,このことは、Sanukitic 高Mg安山岩マグマが白亜紀北部九州の広範囲で実質的に活動したことを示唆している.
【熱源】北多久苦鉄質岩体に産するミグマタイトの産状からは,苦鉄質マグマを熱源とした角閃岩の部分溶融現象が考えられる.微量元素を用いたモデル計算の結果から角閃岩の部分溶融メルトとSanukitic 高Mg安山岩マグマを混合することによって北多久苦鉄質複合岩体周辺に産する花崗岩質マグマの多様性を説明することができる.そして,Sanukitic 高Mg安山岩質マグマの北部九州での空間的な広がりと北部九州花崗岩バソリス構成岩体のモデル計算から,白亜紀北部九州花崗岩バソリスを構成する花崗岩類の一部は,北多久苦鉄質複合岩体の親マグマであるSanukitic 高Mg安山岩マグマとそれを熱源とした部分溶融によって形成したanatexisメルトとの混合により形成可能である.また,Sanukitic 高Mg安山岩マグマも一般に同化作用や分化作用により高Mg閃緑岩や他の苦鉄質マグマとして上昇している.よって,白亜紀北部九州花崗岩バソリスの火成活動の熱源はSanukitic 高Mg安山岩を代表としたマグマであった可能性が高い.このような検討結果は,スラブロールバックによる引張応力場であった白亜紀北東アジア大陸縁辺部のバソリス火成活動,熱源および複雑な地殻成熟過程に新たな知見を与えると考えられる.