[T11-P-7] Zirconolite from the Sør Rondane Mountains, East Antarctica: Relation with a new mineral "kobeite-(Y)" from Kyoto Prefecture
Keywords:zirconolite, kobeiteー(Y), East Antarctica, Sør Rondane Mountains, new mineral, högbomite
ジルコノライト(zirconolite, 以下略号Zrc)は理想構造式CaZrTi2O7で表される酸化鉱物で(Bayliss et al., 1989),SiO2に乏しく高温で形成された岩石に産する.地球では希少な鉱物で,苦鉄質~超苦鉄質岩・サフィリングラニュライト・エメリー・スカルンなどに産する.月面では普遍的に産し,アポロ計画・ルナ計画・嫦娥5号による全ての着陸地点の岩石試料から報告されており,玄武岩・斜長岩・インパクトメルト角礫岩などに含まれている.月起源の隕石中からも報告されている.ジルコノライトはUやThを多く含むことから,月の年代学に用いられているほか,人工のものは高レベル放射性廃棄物の固定(SYNROC)にも利用されている.
河辺石(こうべいし)[ kobeite-(Y) ] は京都府中郡河辺(こうべ)村(現:京丹後市大宮町河辺)から発見された新鉱物である(田久保ほか, 1950).長石に富むペグマタイト中に,パーサイトと共生した柱状・樹枝状結晶として産する.現状では河辺石の化学式は(Y,U)(Ti,Nb)2(O,OH)6とされている.メタミクト化しているため,結晶構造は原記載では報告されていない.
第50次日本南極地域観測隊(2008-2009)により,東南極大陸 セール・ロンダーネ山地,ブラッドニーパネ地域 小指尾根の変成スカルン中から,新鉱物マグネシオヘグボマイト2N4S (magnesiohögbomite-2N4S, IMA#2010-084)(以下略号Hög)が発見された(Shimura et al., 2012).本発表で述べるジルコノライトは,その同じ岩石中に含まれ,Högとも共生している.この変成スカルンは,ドロマイトマーブルと黒雲母片麻岩との間に3~10 m程度の幅で狭長に分布している(Shimura et al., 2012).ジルコノライトはこのスカルン帯内の,以下の3種の岩石中に産する.
・Dol + Fo + Spl ± Phl + Gk + Rt + Zrc スカルン
・Spl + Phl ± Tr + Zrc スカルン
・Hög + Crn + Spl + Clc + Zrc スカルン
この露頭の各種岩石の解析から,このスカルン帯は最高変成温度850 ℃程度以上で形成され,その後700 MPa以上・700 ℃程度の条件を経て温度低下してゆくような,反時計回りの変成P-T-t 経路を経てきたと思われる.また,スカルン中のジルコノライトやウラニナイトなどから約528 MaのCHIME年代が得られている(志村ほか, 2018).
このジルコノライトについて,山口大学のEPMA(JEOL JXA-8230)により,33元素の定量分析をおこなった.その結果,Y2O3は最大約9.1 wt%,REE合計では最大約20.7 wt%含まれていた.そして,
(REE, U, Th) (Zr, Hf) (Ti, Al, Fe2+, Mg)2 O7
のような化学組成である事がわかった.また,ThO2を2~3 wt%, UO2を3~7 wt %含んでいる.メタミクト化しており,現段階では結晶構造は不明である.
一方,河辺石については,国立科学博物館所蔵の原記載産地産標本,NSM-M32642(櫻井標本)の母岩から暗褐色の河辺石の小片を分離した.さらにその微小片を用い,前述と同様に山口大学のEPMAにより,31元素の定量分析をおこなった.その結果,河辺石にはSc2O3最大約3.6 wt%,Y2O3最大約18.3 wt%,REE合計では最大約32.6 wt%含まれていた.そして,
(REE, Ca) Zr (Ti, Fe3+)2 O7
のような化学組成であることがわかった.また,先述の小片を国立科学博物館において粉末X線回折と示差熱分析をおこなった.その結果,メタミクト化前の河辺石の原構造は,加藤(1989)が指摘したように,三方晶系ジルコノライト型である事がわかった(宮脇ほか, 2019).
したがって,南極産ジルコノライトと河辺石は,どちらもジルコノライト(Ca2+ Zr4+ Ti4+2 O7)の希土類置換体であり,
◆南極産のものは,ジルコノライトの REE3+・Al3+ 置換体で,Y3+ Zr4+ (Ti4+, Al3+)2 O7
◆河辺石 は, ジルコノライトの REE3+・Fe3+ 置換体で,Y3+ Zr4+ (Ti4+, Fe3+)2 O7
であると再定義されるべき鉱物である.
文献
Bayliss, P. et al. (1989) Mineral. Magazine, 53, 565-569.
加藤 昭 (1989) 日本鉱物学会要旨, 103.
宮脇律郎ほか (2019) 日本鉱物科学会要旨, R1-11.
Shimura, T. et al. (2012) Amer. Mineral., 97, 268-280.
志村俊昭ほか (2018) 日本地質学会要旨, R4-P4.
田久保實太郎ほか (1950) 地質学雑誌, 56, 501-513.
河辺石(こうべいし)[ kobeite-(Y) ] は京都府中郡河辺(こうべ)村(現:京丹後市大宮町河辺)から発見された新鉱物である(田久保ほか, 1950).長石に富むペグマタイト中に,パーサイトと共生した柱状・樹枝状結晶として産する.現状では河辺石の化学式は(Y,U)(Ti,Nb)2(O,OH)6とされている.メタミクト化しているため,結晶構造は原記載では報告されていない.
第50次日本南極地域観測隊(2008-2009)により,東南極大陸 セール・ロンダーネ山地,ブラッドニーパネ地域 小指尾根の変成スカルン中から,新鉱物マグネシオヘグボマイト2N4S (magnesiohögbomite-2N4S, IMA#2010-084)(以下略号Hög)が発見された(Shimura et al., 2012).本発表で述べるジルコノライトは,その同じ岩石中に含まれ,Högとも共生している.この変成スカルンは,ドロマイトマーブルと黒雲母片麻岩との間に3~10 m程度の幅で狭長に分布している(Shimura et al., 2012).ジルコノライトはこのスカルン帯内の,以下の3種の岩石中に産する.
・Dol + Fo + Spl ± Phl + Gk + Rt + Zrc スカルン
・Spl + Phl ± Tr + Zrc スカルン
・Hög + Crn + Spl + Clc + Zrc スカルン
この露頭の各種岩石の解析から,このスカルン帯は最高変成温度850 ℃程度以上で形成され,その後700 MPa以上・700 ℃程度の条件を経て温度低下してゆくような,反時計回りの変成P-T-t 経路を経てきたと思われる.また,スカルン中のジルコノライトやウラニナイトなどから約528 MaのCHIME年代が得られている(志村ほか, 2018).
このジルコノライトについて,山口大学のEPMA(JEOL JXA-8230)により,33元素の定量分析をおこなった.その結果,Y2O3は最大約9.1 wt%,REE合計では最大約20.7 wt%含まれていた.そして,
(REE, U, Th) (Zr, Hf) (Ti, Al, Fe2+, Mg)2 O7
のような化学組成である事がわかった.また,ThO2を2~3 wt%, UO2を3~7 wt %含んでいる.メタミクト化しており,現段階では結晶構造は不明である.
一方,河辺石については,国立科学博物館所蔵の原記載産地産標本,NSM-M32642(櫻井標本)の母岩から暗褐色の河辺石の小片を分離した.さらにその微小片を用い,前述と同様に山口大学のEPMAにより,31元素の定量分析をおこなった.その結果,河辺石にはSc2O3最大約3.6 wt%,Y2O3最大約18.3 wt%,REE合計では最大約32.6 wt%含まれていた.そして,
(REE, Ca) Zr (Ti, Fe3+)2 O7
のような化学組成であることがわかった.また,先述の小片を国立科学博物館において粉末X線回折と示差熱分析をおこなった.その結果,メタミクト化前の河辺石の原構造は,加藤(1989)が指摘したように,三方晶系ジルコノライト型である事がわかった(宮脇ほか, 2019).
したがって,南極産ジルコノライトと河辺石は,どちらもジルコノライト(Ca2+ Zr4+ Ti4+2 O7)の希土類置換体であり,
◆南極産のものは,ジルコノライトの REE3+・Al3+ 置換体で,Y3+ Zr4+ (Ti4+, Al3+)2 O7
◆河辺石 は, ジルコノライトの REE3+・Fe3+ 置換体で,Y3+ Zr4+ (Ti4+, Fe3+)2 O7
であると再定義されるべき鉱物である.
文献
Bayliss, P. et al. (1989) Mineral. Magazine, 53, 565-569.
加藤 昭 (1989) 日本鉱物学会要旨, 103.
宮脇律郎ほか (2019) 日本鉱物科学会要旨, R1-11.
Shimura, T. et al. (2012) Amer. Mineral., 97, 268-280.
志村俊昭ほか (2018) 日本地質学会要旨, R4-P4.
田久保實太郎ほか (1950) 地質学雑誌, 56, 501-513.