[G-P-38] Why did the Naumann elephant (Palaeoloxodon naumanni) aim for highlands?
Keywords:Palaeoloxodon naumanni , highlands, minaral, Japanese archipelago
はじめに
新潟県妙高市笹ヶ峰の標高1230mの地点からナウマンゾウの下顎第3大臼歯が発見された(近藤,2014).産出層は笹ヶ峰湖層と推定され古笹ヶ峰湖に堆積した湖成層で,AMS14C年代値は37,320±240である(近藤,2015).笹ヶ峰湖成層は3つの平坦面を形成していて,笹ヶ峰Ⅰ面,Ⅱ面,Ⅲ面に区分される(濁川,1982).標本が発見された地点は笹ヶ峰Ⅲ面に相当し,ATを含む地層で,現河床からの比高がニグロ川中流域で5~9mである.笹ヶ峰Ⅲ面とⅡ面の比高差は11~13m,笹ヶ峰Ⅱ面とⅢ面の比高差は30~48mである.この比高差から,吉山・柳田(1995)のBV法により地盤の隆起量を推定すると笹ヶ峰Ⅱ面が形成されてから11~13mの隆起量が推定され,笹ヶ峰Ⅲ面が形成されてからも同様な隆起量であったと仮定すると,隆起量を差し引いても1200mは下回らない.
ナウマンゾウの生息高度の分布と環境
いままで1200mをこえる地点でのナウマンゾウの化石は日本国内では発見されていない. ナウマンゾウ産出地点の標高がわかる124地点の標高の頻度分布をみると,200m以下が最も多く全体の77%以上になる.400mをこえる標高で発見されているのは9.7%に過ぎない.産出したナウマンゾウの化石はほとんどが異地性であり,産出地点がそのまま生息していた標高を示すものではない.とはいえ,化石は堆積物として地層の中に埋積されるので,地層が形成された標高より低い位置のものが入り込むことは考えにくい. アフリカゾウ(Loxodonta africana)の場合,傾斜のある斜面を登るために大きなエネルギーコストがかかるため高い場所はさける傾向がある(Wall et al.,2006).ゾウの移動に影響を与える要因としては,食料,水,ミネラル,繁殖などが考えられる.インドゾウの場合は,水の制限がない場合には食料が最も移動に大きな影響を及ぼし,最適採取理論が適応されるといわれている(Sukumar,1989). 日本列島から見つかったナウマンゾウで発見地点の標高が比較的高い30地点の堆積環境を検討した.標高の値は,藤原ほか(2004)のよる地域ごとの平均的隆起量を補正した。最も多いのが石灰岩洞窟堆積物からの産出で,葛生や秋吉台,平尾台,熊石洞など9地点ある.つぎに湖成層からの産出が8地点,河床の礫層や段丘礫層,扇状地礫層などからの産出が8地点,泥流や土石流など流下堆積物が3地点であった.
高地をめざす要因について
1)水域の存在:標高の高い地点での産出は,本標本の産出層と推定される笹ヶ峰湖成層や,野尻湖標本群を産出した野尻湖層,八幡標本を産出した八ヶ岳北麓に分布する御馬寄層,群馬県の川場標本を産出した川場湖成層,下本郷標本を産出した新期上小湖成層,磐梯熱海標本を産出した郡山層上部,徳佐標本を産出した徳佐層などがある.このような水域の縁辺部に分布する湿地の環境はナウマンゾウにとってもたいへん重要な生息場所であり,こうした水域があることが高地に移動した要因のひとつと考えられる.
2)ミネラルの存在:温泉地域である湯川内標本や山形県の笹森標本などのように,小河川の上流部で広い水域も推定されない高い標高の場所からも化石が見つかっている.狭い峡谷であるが,産地の近くには温泉が存在する.湯川内標本産出地点の付近には笹倉温泉があり,笹森標本産出地点付近には山形県の赤倉温泉がある.磐梯熱海標本の産地上流には磐梯熱海温泉があり,川場標本の産地近くには,川場温泉がある.ミネラルが現生ゾウの行動や生息域の移動する際の重要な要因であることを示唆する研究は多い(Karyn D.et al.2006など).高地における石灰岩地域と温泉のある地域におけるナウマンゾウ化石の発見は,山地帯で安定的にミネラル補給ができる場所であった可能性が高いことを示唆している.
引用文献 藤原ほか(2004)月刊地球, 26, 442-447.Karyn D.R.et al.(2006).Jour.of Tropical Ecology,22,441-449. 近藤(2014)日本地質学会第121年学術大会講演要旨,140.近藤(2015)日本古生物学会年会講演予稿集,17.濁川明男(1982)新潟県立教育センター研究報告,54,75-84.Sukumar,R(1989) Jour. of Tropical Ecology,5:1-8.Wall,Jake,Iain et al.(2006)Corrent Biology vol 16 no14,527-529.吉山昭・柳田誠(1995)地学雑誌,104,809-826.
新潟県妙高市笹ヶ峰の標高1230mの地点からナウマンゾウの下顎第3大臼歯が発見された(近藤,2014).産出層は笹ヶ峰湖層と推定され古笹ヶ峰湖に堆積した湖成層で,AMS14C年代値は37,320±240である(近藤,2015).笹ヶ峰湖成層は3つの平坦面を形成していて,笹ヶ峰Ⅰ面,Ⅱ面,Ⅲ面に区分される(濁川,1982).標本が発見された地点は笹ヶ峰Ⅲ面に相当し,ATを含む地層で,現河床からの比高がニグロ川中流域で5~9mである.笹ヶ峰Ⅲ面とⅡ面の比高差は11~13m,笹ヶ峰Ⅱ面とⅢ面の比高差は30~48mである.この比高差から,吉山・柳田(1995)のBV法により地盤の隆起量を推定すると笹ヶ峰Ⅱ面が形成されてから11~13mの隆起量が推定され,笹ヶ峰Ⅲ面が形成されてからも同様な隆起量であったと仮定すると,隆起量を差し引いても1200mは下回らない.
ナウマンゾウの生息高度の分布と環境
いままで1200mをこえる地点でのナウマンゾウの化石は日本国内では発見されていない. ナウマンゾウ産出地点の標高がわかる124地点の標高の頻度分布をみると,200m以下が最も多く全体の77%以上になる.400mをこえる標高で発見されているのは9.7%に過ぎない.産出したナウマンゾウの化石はほとんどが異地性であり,産出地点がそのまま生息していた標高を示すものではない.とはいえ,化石は堆積物として地層の中に埋積されるので,地層が形成された標高より低い位置のものが入り込むことは考えにくい. アフリカゾウ(Loxodonta africana)の場合,傾斜のある斜面を登るために大きなエネルギーコストがかかるため高い場所はさける傾向がある(Wall et al.,2006).ゾウの移動に影響を与える要因としては,食料,水,ミネラル,繁殖などが考えられる.インドゾウの場合は,水の制限がない場合には食料が最も移動に大きな影響を及ぼし,最適採取理論が適応されるといわれている(Sukumar,1989). 日本列島から見つかったナウマンゾウで発見地点の標高が比較的高い30地点の堆積環境を検討した.標高の値は,藤原ほか(2004)のよる地域ごとの平均的隆起量を補正した。最も多いのが石灰岩洞窟堆積物からの産出で,葛生や秋吉台,平尾台,熊石洞など9地点ある.つぎに湖成層からの産出が8地点,河床の礫層や段丘礫層,扇状地礫層などからの産出が8地点,泥流や土石流など流下堆積物が3地点であった.
高地をめざす要因について
1)水域の存在:標高の高い地点での産出は,本標本の産出層と推定される笹ヶ峰湖成層や,野尻湖標本群を産出した野尻湖層,八幡標本を産出した八ヶ岳北麓に分布する御馬寄層,群馬県の川場標本を産出した川場湖成層,下本郷標本を産出した新期上小湖成層,磐梯熱海標本を産出した郡山層上部,徳佐標本を産出した徳佐層などがある.このような水域の縁辺部に分布する湿地の環境はナウマンゾウにとってもたいへん重要な生息場所であり,こうした水域があることが高地に移動した要因のひとつと考えられる.
2)ミネラルの存在:温泉地域である湯川内標本や山形県の笹森標本などのように,小河川の上流部で広い水域も推定されない高い標高の場所からも化石が見つかっている.狭い峡谷であるが,産地の近くには温泉が存在する.湯川内標本産出地点の付近には笹倉温泉があり,笹森標本産出地点付近には山形県の赤倉温泉がある.磐梯熱海標本の産地上流には磐梯熱海温泉があり,川場標本の産地近くには,川場温泉がある.ミネラルが現生ゾウの行動や生息域の移動する際の重要な要因であることを示唆する研究は多い(Karyn D.et al.2006など).高地における石灰岩地域と温泉のある地域におけるナウマンゾウ化石の発見は,山地帯で安定的にミネラル補給ができる場所であった可能性が高いことを示唆している.
引用文献 藤原ほか(2004)月刊地球, 26, 442-447.Karyn D.R.et al.(2006).Jour.of Tropical Ecology,22,441-449. 近藤(2014)日本地質学会第121年学術大会講演要旨,140.近藤(2015)日本古生物学会年会講演予稿集,17.濁川明男(1982)新潟県立教育センター研究報告,54,75-84.Sukumar,R(1989) Jour. of Tropical Ecology,5:1-8.Wall,Jake,Iain et al.(2006)Corrent Biology vol 16 no14,527-529.吉山昭・柳田誠(1995)地学雑誌,104,809-826.