[G-P-37] (entry) Morphological variations of shell outline of Corbicula japonica from Holocene deposits around Lake Shinji, Shimane Prefecture, southwestern Japan
Keywords:Holocene, Lake Shinji, Corbicula japonica, Elliptic Fourier analysis, Morphological analysis, Principal component analysis
シジミ属(Corbicula属)は現在日本の淡水から汽水に生息する代表的な二枚貝で,化石としても多産する.シジミ属は種間で殻形態が類似し,同種でも殻形態に変異があることが知られている(高安ほか,1986など).本研究では日本の代表的なシジミ属の種で,汽水域において多産する完新世のヤマトシジミ(Corbicula japonica)の殻外形の変異性に焦点を当て,時代や環境の違いとの関係を明らかにすることを目的に形態解析を行った.
解析に使用したヤマトシジミに関して,現生標本は島根県宍道湖北西岸で採取された遺骸殻である.弥生時代の標本は宍道湖底から漁師により採取された化石殻で,モニュメント・ミュージアム来待ストーン所有の標本である.これは宍道湖北西部の湖棚上に露出するシジミ殻密集層由来であると推定され,その密集層のシジミ殻の14C年代は約2000年前を示す(徳岡ほか,1997).縄文時代の標本は島根大学総合博物館アシカル所有の化石殻で,島根大学の地下に存在する縄文時代前期から中期前半に堆積した第4a層から出土した標本である(島根大学埋蔵文化財調査研究センター,2000).ヤマトシジミと比較するため,琵琶湖特産の現生セタシジミ(Corbicula sandai)も分析に使用した.
分析に際して,これらの標本の左殻を用いて殻の2次元投影面の面積を求め,殻の外形の形態解析には楕円フーリエ解析(Kuhl and Giardina, 1982) を用いた.殻の二次元投影面の面積は画像処理ソフトのImage Jを,楕円フーリエ解析にはSHAPE(Iwata and Ukai, 2002)を用い,楕円フーリエ記述子の係数に対し主成分分析を行い形状の差異の主要な成分を抽出し,形状を少数の主成分得点で表現した.
形態解析の結果,セタシジミと現生のヤマトシジミでは第1〜第3主成分までで種を判別することが可能であった.また,ヤマトシジミの種内変異に関しては,第3主成分までで現生標本と弥生時代標本の違いを認めることができた.一方,現生標本と縄文時代標本はきわめて類似し,楕円フーリエ解析で区別することはできなかった.各主成分と2次元投影面の面積のデータを用いて,成長段階の違いによる外形の変化について検討した.結果として,現生のヤマトシジミは第1主成分と2次元投影面の面積との間に正の相関が認められた.これは,現生のヤマトシジミでは成長に伴い外形が横に長い形状から縦に長い形状へと変化することを反映している.これは小さい個体よりも大きい個体の方が殻高/殻長の値が高い傾向にあるという報告(高安ほか,1986)と一致する.弥生時代と縄文時代の標本も含めて検討した場合でも同様の傾向が見られたが,この傾向は面積が400 mm2付近までで,それ以上のサイズでは見られなくなった.これは稚貝期とそれ以降で殻高/殻長の増加量が変化するという報告(倉茂,1944など)と調和的である.縄文時代標本と弥生時代標本を解析した結果,同じサイズでは弥生時代標本よりも縄文時代標本は横に長い外形を示した.ヤマトシジミは満潮時に海水が流入するような環境では塩分の高い海水の影響を避けるために頻繁に潜掘行動を行わなければならないため,平らで横に長い形状になるという報告(中尾・園田, 1995)がある.本研究でも,縄文時代標本が得られた地点は弥生時代標本のそれよりも塩分変動の激しい環境であったと推定されることから,殻外形の違いは環境の違いを反映している可能性が高い.
引用文献
Iwata, H. and Ukai, Y., 2002, Jour. Heredity, 93, 384–385.Kuhl, F.P., and Giardina, C.R., 1982, Comput. Graph. Image Process., 18, 236–258.倉茂英次郎,1944,日本海洋学会誌,3, 231–253.中尾 繁・園田 武,1995,神西湖の自然,神西湖の自然編集委員会 編,たたら書房,p. 101–114.島根大学埋蔵文化財調査研究センター,2000編,島根大学埋蔵文化財調査研究報告,6,112p.高安克己・漆戸尊子・奥出不二生,1986,島根大学地質学研究報告,no. 5, 35–42.徳岡隆夫・中村唯史・三瓶良和,1997,Laguna, no. 4, 77–83.
解析に使用したヤマトシジミに関して,現生標本は島根県宍道湖北西岸で採取された遺骸殻である.弥生時代の標本は宍道湖底から漁師により採取された化石殻で,モニュメント・ミュージアム来待ストーン所有の標本である.これは宍道湖北西部の湖棚上に露出するシジミ殻密集層由来であると推定され,その密集層のシジミ殻の14C年代は約2000年前を示す(徳岡ほか,1997).縄文時代の標本は島根大学総合博物館アシカル所有の化石殻で,島根大学の地下に存在する縄文時代前期から中期前半に堆積した第4a層から出土した標本である(島根大学埋蔵文化財調査研究センター,2000).ヤマトシジミと比較するため,琵琶湖特産の現生セタシジミ(Corbicula sandai)も分析に使用した.
分析に際して,これらの標本の左殻を用いて殻の2次元投影面の面積を求め,殻の外形の形態解析には楕円フーリエ解析(Kuhl and Giardina, 1982) を用いた.殻の二次元投影面の面積は画像処理ソフトのImage Jを,楕円フーリエ解析にはSHAPE(Iwata and Ukai, 2002)を用い,楕円フーリエ記述子の係数に対し主成分分析を行い形状の差異の主要な成分を抽出し,形状を少数の主成分得点で表現した.
形態解析の結果,セタシジミと現生のヤマトシジミでは第1〜第3主成分までで種を判別することが可能であった.また,ヤマトシジミの種内変異に関しては,第3主成分までで現生標本と弥生時代標本の違いを認めることができた.一方,現生標本と縄文時代標本はきわめて類似し,楕円フーリエ解析で区別することはできなかった.各主成分と2次元投影面の面積のデータを用いて,成長段階の違いによる外形の変化について検討した.結果として,現生のヤマトシジミは第1主成分と2次元投影面の面積との間に正の相関が認められた.これは,現生のヤマトシジミでは成長に伴い外形が横に長い形状から縦に長い形状へと変化することを反映している.これは小さい個体よりも大きい個体の方が殻高/殻長の値が高い傾向にあるという報告(高安ほか,1986)と一致する.弥生時代と縄文時代の標本も含めて検討した場合でも同様の傾向が見られたが,この傾向は面積が400 mm2付近までで,それ以上のサイズでは見られなくなった.これは稚貝期とそれ以降で殻高/殻長の増加量が変化するという報告(倉茂,1944など)と調和的である.縄文時代標本と弥生時代標本を解析した結果,同じサイズでは弥生時代標本よりも縄文時代標本は横に長い外形を示した.ヤマトシジミは満潮時に海水が流入するような環境では塩分の高い海水の影響を避けるために頻繁に潜掘行動を行わなければならないため,平らで横に長い形状になるという報告(中尾・園田, 1995)がある.本研究でも,縄文時代標本が得られた地点は弥生時代標本のそれよりも塩分変動の激しい環境であったと推定されることから,殻外形の違いは環境の違いを反映している可能性が高い.
引用文献
Iwata, H. and Ukai, Y., 2002, Jour. Heredity, 93, 384–385.Kuhl, F.P., and Giardina, C.R., 1982, Comput. Graph. Image Process., 18, 236–258.倉茂英次郎,1944,日本海洋学会誌,3, 231–253.中尾 繁・園田 武,1995,神西湖の自然,神西湖の自然編集委員会 編,たたら書房,p. 101–114.島根大学埋蔵文化財調査研究センター,2000編,島根大学埋蔵文化財調査研究報告,6,112p.高安克己・漆戸尊子・奥出不二生,1986,島根大学地質学研究報告,no. 5, 35–42.徳岡隆夫・中村唯史・三瓶良和,1997,Laguna, no. 4, 77–83.