[T15-P-8] (entry) Gradual transition from Mikabu Greenstones to siliceous rocks (Kashiwagi Unit) observed in the Kanto Mountains, central Japan
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:御荷鉾帯は三波川帯と秩父帯の間に断続的に発達する地質体で緑色岩を主体とする.今回の発表は,関東山地における御荷鉾ユニットの海台起源の緑色岩と,その上位に接する柏木ユニットのチャートや酸性凝灰岩に注目し,両者が初生的に断層関係ではなく漸移関係の露頭があることを摘示し,両ユニットの初生的な関係を復元するものである.※ハイライトとは
Keywords:Mikabu Unit, Kashiwagi Unit, Greenstones, Siliceous Rocks
【はじめに】
御荷鉾ユニットは緑色岩(御荷鉾緑色岩)の広域分布を特徴とし,西南日本外帯の三波川帯と秩父帯北帯の間に断続的に分布する.御荷鉾ユニットは,ジュラ紀後期の火成活動によってできた巨大な海台を起源とし,白亜紀前期に付加したとされている (Sakakibara et al., 1993 など).本発表では,関東山地において御荷鉾緑色岩と,その上に乗るチャートや酸性凝灰岩などの珪質岩が,漸移関係になっている接触境界露頭の記載結果を報告する.両者の漸移性が認められた露頭は, (1) 越生地域・石清水観音堂裏, (2) 堂平山東・沢沿い, (3) 堂平山南東・七重 であり,一部は,川島・高木 (2017) によって報告されている.いずれも,後述のように御荷鉾ユニットと柏木ユニットの断層境界と考えられている露頭である (納谷ほか, 2023; 牧本・竹内, 1992 など).ただし,川島・高木 (2017) によって漸移性が記述された越生・和田川沿いの露頭については,納谷ほか (2023) により御荷鉾帯内部のチャートと位置付けられていることから,本報告では除外する.
【観察結果】
(1) 越生地域・石清水観音堂裏の露頭 (川島・高木, 2017)
下位の緑色岩と上位の層状チャートが接している様子が確認できる.上位の層状チャートは納谷ほか (2023) などは,黒山ユニット (秩父帯北帯柏木ユニット相当) に対比している.境界部ではチャートの中に最大で厚さ40 cmほどの緑色岩の単層が挟まれる.境界部付近では,P-R1複合面構造より上盤北西の剪断センスが認められるが,明確な破砕帯は伴わないことから,境界面を利用して二次的に僅かに滑った程度のものと考えられる.チャートには,境界部付近にのみアルカリ角閃石が存在し,境界から離れるにつれ減少する様子が確認できる.
(2) 堂平山東・沢沿いの露頭
下位の緑色岩と,上位の珪質岩 (石英+褐色繊維状鉱物) が接している様子が確認できる.珪質岩は,境界部,境界から5 cm,15 cmの3つの位置で薄片を作ると,境界部の薄片だけに石英と褐色繊維状鉱物の他に,角閃石類や曹長石の存在が認められた.両者の境界部付近に,断層による不連続は認められない.
(3) 堂平山南東・七重の露頭
下位の緑色岩と,上位の酸性凝灰岩が接している様子が確認できる.酸性凝灰岩は層状でアクチノ閃石が配列して片理を作っている.両者の境界部付近に断層による不連続は認められない.接触部では,緑色岩のアクチノ閃石密集部と,酸性凝灰岩の石英集合体の間に,幅約100 µmのアクチノ閃石と石英が共存する部分が認められる.(2) と (3) の露頭は,牧本・竹内(1992) によるチャート・珪質岩ユニット (柏木ユニット相当) と,御荷鉾ユニットの境界とされた付近に位置する.
【漸移性について】
(2) および (3) の露頭では,御荷鉾緑色岩とその上位の珪質岩の間には,断層による明確な不連続は認められなかった.また,どの露頭にも共通して,露頭スケール・薄片スケールで,互層もしくはレンズ状に両者が繰り返していることが確認できる.このような緑色岩と珪質岩の漸移関係の成因は,堆積時の初生的な混合であると考えられる.ジュラ紀末の御荷鉾海台の火成活動の終息期に,玄武岩質溶岩・玄武岩質火砕岩が未固結な状態で,その上に放散虫軟泥や酸性凝灰岩が降り積もり,両者の漸移関係がつくられた可能性がある.以上より,柏木ユニットは初生的には御荷鉾ユニットと連続関係であり,柏木ユニットは御荷鉾ユニットに含められるべきものと考えられる.柏木ユニットにおける放散虫年代の報告は,ジュラ紀後期から白亜紀前期であり (松岡, 2013 など),そのことと矛盾しない.
引用文献
川島庸亮・高木秀雄, 2017, 日本地質学会第124年学術大会演旨, 391.; 牧本 博・竹内圭史,1992,寄居地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅).地質調査所,136p.; 松岡喜久次, 2013, 地球科学, 67, 101–112.; 納谷友規・原 英俊・小松原純子, 2023, 川越地域の地質, 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 産総研地質調査総合センター, 121p.; Sakakibara, M., Hori, R.S., Murakami, T., 1993, J. Geol. Soc. Japan. 99, 831–833.
御荷鉾ユニットは緑色岩(御荷鉾緑色岩)の広域分布を特徴とし,西南日本外帯の三波川帯と秩父帯北帯の間に断続的に分布する.御荷鉾ユニットは,ジュラ紀後期の火成活動によってできた巨大な海台を起源とし,白亜紀前期に付加したとされている (Sakakibara et al., 1993 など).本発表では,関東山地において御荷鉾緑色岩と,その上に乗るチャートや酸性凝灰岩などの珪質岩が,漸移関係になっている接触境界露頭の記載結果を報告する.両者の漸移性が認められた露頭は, (1) 越生地域・石清水観音堂裏, (2) 堂平山東・沢沿い, (3) 堂平山南東・七重 であり,一部は,川島・高木 (2017) によって報告されている.いずれも,後述のように御荷鉾ユニットと柏木ユニットの断層境界と考えられている露頭である (納谷ほか, 2023; 牧本・竹内, 1992 など).ただし,川島・高木 (2017) によって漸移性が記述された越生・和田川沿いの露頭については,納谷ほか (2023) により御荷鉾帯内部のチャートと位置付けられていることから,本報告では除外する.
【観察結果】
(1) 越生地域・石清水観音堂裏の露頭 (川島・高木, 2017)
下位の緑色岩と上位の層状チャートが接している様子が確認できる.上位の層状チャートは納谷ほか (2023) などは,黒山ユニット (秩父帯北帯柏木ユニット相当) に対比している.境界部ではチャートの中に最大で厚さ40 cmほどの緑色岩の単層が挟まれる.境界部付近では,P-R1複合面構造より上盤北西の剪断センスが認められるが,明確な破砕帯は伴わないことから,境界面を利用して二次的に僅かに滑った程度のものと考えられる.チャートには,境界部付近にのみアルカリ角閃石が存在し,境界から離れるにつれ減少する様子が確認できる.
(2) 堂平山東・沢沿いの露頭
下位の緑色岩と,上位の珪質岩 (石英+褐色繊維状鉱物) が接している様子が確認できる.珪質岩は,境界部,境界から5 cm,15 cmの3つの位置で薄片を作ると,境界部の薄片だけに石英と褐色繊維状鉱物の他に,角閃石類や曹長石の存在が認められた.両者の境界部付近に,断層による不連続は認められない.
(3) 堂平山南東・七重の露頭
下位の緑色岩と,上位の酸性凝灰岩が接している様子が確認できる.酸性凝灰岩は層状でアクチノ閃石が配列して片理を作っている.両者の境界部付近に断層による不連続は認められない.接触部では,緑色岩のアクチノ閃石密集部と,酸性凝灰岩の石英集合体の間に,幅約100 µmのアクチノ閃石と石英が共存する部分が認められる.(2) と (3) の露頭は,牧本・竹内(1992) によるチャート・珪質岩ユニット (柏木ユニット相当) と,御荷鉾ユニットの境界とされた付近に位置する.
【漸移性について】
(2) および (3) の露頭では,御荷鉾緑色岩とその上位の珪質岩の間には,断層による明確な不連続は認められなかった.また,どの露頭にも共通して,露頭スケール・薄片スケールで,互層もしくはレンズ状に両者が繰り返していることが確認できる.このような緑色岩と珪質岩の漸移関係の成因は,堆積時の初生的な混合であると考えられる.ジュラ紀末の御荷鉾海台の火成活動の終息期に,玄武岩質溶岩・玄武岩質火砕岩が未固結な状態で,その上に放散虫軟泥や酸性凝灰岩が降り積もり,両者の漸移関係がつくられた可能性がある.以上より,柏木ユニットは初生的には御荷鉾ユニットと連続関係であり,柏木ユニットは御荷鉾ユニットに含められるべきものと考えられる.柏木ユニットにおける放散虫年代の報告は,ジュラ紀後期から白亜紀前期であり (松岡, 2013 など),そのことと矛盾しない.
引用文献
川島庸亮・高木秀雄, 2017, 日本地質学会第124年学術大会演旨, 391.; 牧本 博・竹内圭史,1992,寄居地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅).地質調査所,136p.; 松岡喜久次, 2013, 地球科学, 67, 101–112.; 納谷友規・原 英俊・小松原純子, 2023, 川越地域の地質, 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 産総研地質調査総合センター, 121p.; Sakakibara, M., Hori, R.S., Murakami, T., 1993, J. Geol. Soc. Japan. 99, 831–833.