[T15-P-16] (entry) Zircon U-Pb ages of volcanic rocks from Gongozaki - Akashima, northwestern coast of Oga Peninsula, northeast Japan
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:本邦新生代の一大イベントである日本海形成の直前の地史は曖昧なところが多い.これは主に当時の地層が限られていることに起因しており,その限られた地層が分布している男鹿半島は重要な証拠源といえる.本発表は新しい年代測定を報告し,この“直前の地史”に制約を与えるものである.※ハイライトとは
Keywords:Late Eocene, Zircon U-Pb age, Oga Peninsula, Geopark
東北日本新生界の模式地とされる男鹿半島西部には,後期白亜紀から新第三紀の火山岩類が分布する.これらの火山岩類に関する年代学的研究は多く(大口ほか,1995;鹿野ほか,2012など),鹿野ほか(2011)はこれを踏まえて層序の大幅な見直しを行った.
男鹿半島北西部の赤島からごんご崎に至る海岸には,後期白亜紀赤島層と後期始新世門前層が分布する.両者は断層で接すると考えられており,その間には約40 Maの時間間隔があると考えられている.我々は,この推定断層の南に近接する門前層竜ヶ島デイサイト部層の露頭において,不整合であると考えられる地層境界を発見した.この露頭の岩石の年代値はこれまで報告が無い.この地層境界周辺に分布する岩石の年代を明らかにすることは,後期白亜紀から古第三紀の層序,ひいてはこの時代における東北日本の地質構造発達史を考える上で重要である.したがって,本研究ではこの地層境界周辺の岩石に対して地質調査を行い,ジルコンU-Pb年代を測定した.また,この時代の火成活動の特徴と変化を解明するため,全岩化学組成分析を行った.
採取岩石(粗面安山岩質―流紋岩質火山岩・火砕岩)のうち,7試料に対して全岩化学組成分析を行い,地層境界上下の試料である流紋岩火山礫凝灰岩1試料と角閃石粗面岩溶岩3試料に対してジルコンのU-Pb年代を測定した.全岩化学組成分析には秋田大学国際資源学部に設置の蛍光X線分析装置を,ジルコンU-Pb年代には産業技術総合研究所地質調査総合センター地圏資源環境研究部門に設置のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を使用した.
北から南に向かって,溶結凝灰岩(Awt),シルト岩(Usl),普通角閃石粗面岩溶岩(Rt1),細粒凝灰岩―火山礫凝灰岩および流紋岩火山礫凝灰岩(Rpr)の岩相を認定した. Awt―Uslとの関係は観察出来なかった.UslとRt1は断層で接しており,その他の岩相は南ほど新しい.不整合様の境界直下の岩相はRt1で,直上はRprである.Rt1は,変質により紫褐色~黒褐色を呈す斑状の岩石で,斑晶鉱物として普通角閃石,斜長石,融食形を呈す石英を含む.Rprは,変質により淡緑色~淡褐色を呈する淘汰の悪い岩石で,斑晶鉱物として斜長石と石英を含む.また,ジルコンU-Pb年代の加重平均値(2σ)は,Rt1で29.7±3.3 Ma,29.6±3.9 Ma,31.6±3.2 Ma,Rprでは31.1±2.0 Maであった.
鹿野ほか(2011)によれば,Awtは後期白亜紀赤島層に,Uslは中期中新世西黒沢層に,Rt1とRprは後期始新世門前層に対応する.本調査地域より北東に位置する畠では赤島層と門前層が断層で接しており,大口ほか(1979)はこの断層を本地域赤島まで延長している.しかし,この地域ではAwt―Usl間の直接的な関係が観察できない.また,Awt―Usl間で走向と傾斜に変化が少ないことから両者は整合関係の可能性がある.むしろUsl―Rt1間が断層であるため,その間に大きな時代間隙が存在する可能性もある.そのため,本発表ではUslは時代未詳とする.Uslは生物源堆積物を多く含むが稀に異質な鉱物(~100 µmの斜長石および直方輝石)を含むため,半遠洋性堆積物が固結した岩石であると考えられる.大口ほか(1979)はUslにおいて海生生物化石を報告しているが,その詳細は不明である.堆積環境を決定することも今後の課題である.
大口ほか(1995)は竜ヶ島デイサイト部層の年代値として27.1±0.6 Ma(全岩K-Ar年代)を報告したが,この結果を若返りによるものとし,噴出年代を34 Ma以前であると論じた.本研究のジルコンU-Pb年代測定結果は,古第三紀後期始新世から前期漸新世の年代を示し,34Maから大幅に古い噴出年代とはいえない.この時代の当地域は陸弧に位置し,局所的な海進を伴うリフティングと火山活動,それに伴う地殻変動が起こった時期である.赤島~ごんご崎における火山岩類は,この火山活動の産物であると考えられる.
謝辞:本研究は令和4年度秋田県ジオパーク研究助成事業の支援を受けました.記して感謝申し上げます.
参考文献
大口ほか(1979),岩鉱,74,207-216p.
大口ほか(1995),地質学論集,44, 39-54p.
鹿野ほか(2011),地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),127p.
鹿野ほか(2012),地質学雑誌,118(6),351-364p.
男鹿半島北西部の赤島からごんご崎に至る海岸には,後期白亜紀赤島層と後期始新世門前層が分布する.両者は断層で接すると考えられており,その間には約40 Maの時間間隔があると考えられている.我々は,この推定断層の南に近接する門前層竜ヶ島デイサイト部層の露頭において,不整合であると考えられる地層境界を発見した.この露頭の岩石の年代値はこれまで報告が無い.この地層境界周辺に分布する岩石の年代を明らかにすることは,後期白亜紀から古第三紀の層序,ひいてはこの時代における東北日本の地質構造発達史を考える上で重要である.したがって,本研究ではこの地層境界周辺の岩石に対して地質調査を行い,ジルコンU-Pb年代を測定した.また,この時代の火成活動の特徴と変化を解明するため,全岩化学組成分析を行った.
採取岩石(粗面安山岩質―流紋岩質火山岩・火砕岩)のうち,7試料に対して全岩化学組成分析を行い,地層境界上下の試料である流紋岩火山礫凝灰岩1試料と角閃石粗面岩溶岩3試料に対してジルコンのU-Pb年代を測定した.全岩化学組成分析には秋田大学国際資源学部に設置の蛍光X線分析装置を,ジルコンU-Pb年代には産業技術総合研究所地質調査総合センター地圏資源環境研究部門に設置のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を使用した.
北から南に向かって,溶結凝灰岩(Awt),シルト岩(Usl),普通角閃石粗面岩溶岩(Rt1),細粒凝灰岩―火山礫凝灰岩および流紋岩火山礫凝灰岩(Rpr)の岩相を認定した. Awt―Uslとの関係は観察出来なかった.UslとRt1は断層で接しており,その他の岩相は南ほど新しい.不整合様の境界直下の岩相はRt1で,直上はRprである.Rt1は,変質により紫褐色~黒褐色を呈す斑状の岩石で,斑晶鉱物として普通角閃石,斜長石,融食形を呈す石英を含む.Rprは,変質により淡緑色~淡褐色を呈する淘汰の悪い岩石で,斑晶鉱物として斜長石と石英を含む.また,ジルコンU-Pb年代の加重平均値(2σ)は,Rt1で29.7±3.3 Ma,29.6±3.9 Ma,31.6±3.2 Ma,Rprでは31.1±2.0 Maであった.
鹿野ほか(2011)によれば,Awtは後期白亜紀赤島層に,Uslは中期中新世西黒沢層に,Rt1とRprは後期始新世門前層に対応する.本調査地域より北東に位置する畠では赤島層と門前層が断層で接しており,大口ほか(1979)はこの断層を本地域赤島まで延長している.しかし,この地域ではAwt―Usl間の直接的な関係が観察できない.また,Awt―Usl間で走向と傾斜に変化が少ないことから両者は整合関係の可能性がある.むしろUsl―Rt1間が断層であるため,その間に大きな時代間隙が存在する可能性もある.そのため,本発表ではUslは時代未詳とする.Uslは生物源堆積物を多く含むが稀に異質な鉱物(~100 µmの斜長石および直方輝石)を含むため,半遠洋性堆積物が固結した岩石であると考えられる.大口ほか(1979)はUslにおいて海生生物化石を報告しているが,その詳細は不明である.堆積環境を決定することも今後の課題である.
大口ほか(1995)は竜ヶ島デイサイト部層の年代値として27.1±0.6 Ma(全岩K-Ar年代)を報告したが,この結果を若返りによるものとし,噴出年代を34 Ma以前であると論じた.本研究のジルコンU-Pb年代測定結果は,古第三紀後期始新世から前期漸新世の年代を示し,34Maから大幅に古い噴出年代とはいえない.この時代の当地域は陸弧に位置し,局所的な海進を伴うリフティングと火山活動,それに伴う地殻変動が起こった時期である.赤島~ごんご崎における火山岩類は,この火山活動の産物であると考えられる.
謝辞:本研究は令和4年度秋田県ジオパーク研究助成事業の支援を受けました.記して感謝申し上げます.
参考文献
大口ほか(1979),岩鉱,74,207-216p.
大口ほか(1995),地質学論集,44, 39-54p.
鹿野ほか(2011),地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),127p.
鹿野ほか(2012),地質学雑誌,118(6),351-364p.