[T15-P-21] Well-preserved radiolarian fossil assemblages from the infill of the trace fossil Tasselia ordamensis and their stratigraphic significances: an example of the Miocene Amatsu Formation of the Miura Group on the Boso Peninsula, Chiba, Japan
Keywords:trace fossil, siliceous microfossil, carbonate concretion, preservation potential, Miocene
【はじめに】
激しく変形した地質体の層序や地質構造の解明には,浮遊性微化石層序に基づく地層の対比や堆積年代が有効な手がかりとなる.しかし堆積物の削剥作用や埋没後の続成作用によって,微化石が地層中に保存されない場合や保存状態が悪化する事が知られている.そのため,種レベルでの同定が困難となり,地層の対比や年代決定の精度が低下し,ひいては層序や地質構造の議論が十分に行えないケースがある.筆者らは,続成作用が進行して微化石の保存状態が悪い堆積物から,保存良好な微化石を効率良く多量に抽出する試料として炭酸塩コンクリーション化した生痕化石に着目してきた.そして,鹿児島県種子島の漸新統から産出した生痕化石Tasselia ordamensis(以下Tasselia)から抽出した放散虫化石群集を,その好例として報告した(Kikukawa et al.,2022).本研究では,房総半島の三浦層群天津層に産するTasseliaから抽出した放散虫化石群集を対象とし,その保存状態と層序学的重要性について検討した.
【地質概説】
本研究で対象とする三浦層群は,外縁隆起帯である嶺岡帯北側に形成された前弧海盆を埋積した中部中新統〜下部鮮新統である(柴田ほか,2021).このうち,天津層は本層群下〜中部の層準を占める泥岩を主体とする中〜上部中新統で,凝灰岩層を頻繁に挟在し,それらのうちAm1~Am101までの凝灰岩鍵層が知られている(中嶋・渡辺,2005).
【試料及び処理方法】
本研究では天津層下部の凝灰岩鍵層Am29の下位約3.5 mの層準から採取した泥岩と生痕化石Tasseliaに含まれる放散虫化石を検討した.まずTasseliaの断面スラブを作成した.それをフッ化水素酸および塩酸で酸処理した後,その表面をSEMで観察した.さらに残渣から目安100個体の放散虫化石を拾い上げSEMで撮影し種レベルで同定した.泥岩試料についても同様の酸処理を行い,残渣から拾い上げた放散虫化石を種レベルで同定した.さらに,Tasseliaの内部充填物の鉱物組成をXRD分析で求めた.
【結果】
TasseliaからはCyrtocapsella japonica,Diartus petterssoni,Lithopera bacca,L. thornburgiなど28属36種で構成される放散虫化石群集が確認された.一方,泥岩試料からはEucyrtidium yatsuoense,E. calvertense,Didymocyrtis cf. laticonusなど8属11種から構成される放散虫化石群集が確認された.Tasseliaから産出した放散虫化石は,spineやapical horn,feetといった微細な構造が欠損することなく保存されていた.一方,泥岩から産出した放散虫化石のほとんどは破損しており保存状態は悪かった.
XRDによる分析の結果,ドロマイト,カルサイト,石英,斜長石がTasselia内部の充填鉱物であると判明した.この中でも特にドロマイトが優勢であることが示唆された.
【考察】
天津層の複合年代層序を詳細に検討した澤田ほか(2009)は, D. petterssoniの初出現が凝灰岩鍵層Am29よりも上位(Am29-Am31間)のSP-3層準と考えた.D. petterssoniは,その初出現が低緯度放散虫化石帯RN6帯の基底を定義することから,生層序学的に重要な種とされている.一方,本研究でAm29の下位側約3.5 mの層準から採取したTasseliaには, D. petterssoniが保存されていた.この事実は,天津層における本種の初出現層準が,従来の見解よりも下位に位置することを示唆する.
澤田ほか(2009)は,泥岩に比べ石灰質ノジュールから保存良好な放散虫化石が多産するとしているが,Am29より20 m下位までは泥岩試料を用いて検討している.本研究でTasseliaと泥岩とで放散虫化石の保存状態を比較した結果,泥岩試料から産出した放散虫化石のほとんどは保存が悪かった.一方,ドロマイトといった炭酸塩鉱物で充填されたTasseliaからは保存良好な放散虫化石が多産し,D. petterssoniをはじめとする生層序学的に重要な種も産出した.この様に,炭酸塩コンクリーション化した生痕化石内に保存された微化石が,母岩中のそれよりも質の高い生層序学的情報を提供することは注目に価する.
【文献】
Kikukawa et al.,2022,InterRad(XVI) in Ljubljana,Abstr. 51-52.
中嶋・渡辺,2005,5万分の1地質図幅「富津」.
澤田ほか,2009,地質雑,115,206-222.
柴田ほか,2021,神奈川博調査研報(自然),16,69-106.
激しく変形した地質体の層序や地質構造の解明には,浮遊性微化石層序に基づく地層の対比や堆積年代が有効な手がかりとなる.しかし堆積物の削剥作用や埋没後の続成作用によって,微化石が地層中に保存されない場合や保存状態が悪化する事が知られている.そのため,種レベルでの同定が困難となり,地層の対比や年代決定の精度が低下し,ひいては層序や地質構造の議論が十分に行えないケースがある.筆者らは,続成作用が進行して微化石の保存状態が悪い堆積物から,保存良好な微化石を効率良く多量に抽出する試料として炭酸塩コンクリーション化した生痕化石に着目してきた.そして,鹿児島県種子島の漸新統から産出した生痕化石Tasselia ordamensis(以下Tasselia)から抽出した放散虫化石群集を,その好例として報告した(Kikukawa et al.,2022).本研究では,房総半島の三浦層群天津層に産するTasseliaから抽出した放散虫化石群集を対象とし,その保存状態と層序学的重要性について検討した.
【地質概説】
本研究で対象とする三浦層群は,外縁隆起帯である嶺岡帯北側に形成された前弧海盆を埋積した中部中新統〜下部鮮新統である(柴田ほか,2021).このうち,天津層は本層群下〜中部の層準を占める泥岩を主体とする中〜上部中新統で,凝灰岩層を頻繁に挟在し,それらのうちAm1~Am101までの凝灰岩鍵層が知られている(中嶋・渡辺,2005).
【試料及び処理方法】
本研究では天津層下部の凝灰岩鍵層Am29の下位約3.5 mの層準から採取した泥岩と生痕化石Tasseliaに含まれる放散虫化石を検討した.まずTasseliaの断面スラブを作成した.それをフッ化水素酸および塩酸で酸処理した後,その表面をSEMで観察した.さらに残渣から目安100個体の放散虫化石を拾い上げSEMで撮影し種レベルで同定した.泥岩試料についても同様の酸処理を行い,残渣から拾い上げた放散虫化石を種レベルで同定した.さらに,Tasseliaの内部充填物の鉱物組成をXRD分析で求めた.
【結果】
TasseliaからはCyrtocapsella japonica,Diartus petterssoni,Lithopera bacca,L. thornburgiなど28属36種で構成される放散虫化石群集が確認された.一方,泥岩試料からはEucyrtidium yatsuoense,E. calvertense,Didymocyrtis cf. laticonusなど8属11種から構成される放散虫化石群集が確認された.Tasseliaから産出した放散虫化石は,spineやapical horn,feetといった微細な構造が欠損することなく保存されていた.一方,泥岩から産出した放散虫化石のほとんどは破損しており保存状態は悪かった.
XRDによる分析の結果,ドロマイト,カルサイト,石英,斜長石がTasselia内部の充填鉱物であると判明した.この中でも特にドロマイトが優勢であることが示唆された.
【考察】
天津層の複合年代層序を詳細に検討した澤田ほか(2009)は, D. petterssoniの初出現が凝灰岩鍵層Am29よりも上位(Am29-Am31間)のSP-3層準と考えた.D. petterssoniは,その初出現が低緯度放散虫化石帯RN6帯の基底を定義することから,生層序学的に重要な種とされている.一方,本研究でAm29の下位側約3.5 mの層準から採取したTasseliaには, D. petterssoniが保存されていた.この事実は,天津層における本種の初出現層準が,従来の見解よりも下位に位置することを示唆する.
澤田ほか(2009)は,泥岩に比べ石灰質ノジュールから保存良好な放散虫化石が多産するとしているが,Am29より20 m下位までは泥岩試料を用いて検討している.本研究でTasseliaと泥岩とで放散虫化石の保存状態を比較した結果,泥岩試料から産出した放散虫化石のほとんどは保存が悪かった.一方,ドロマイトといった炭酸塩鉱物で充填されたTasseliaからは保存良好な放散虫化石が多産し,D. petterssoniをはじめとする生層序学的に重要な種も産出した.この様に,炭酸塩コンクリーション化した生痕化石内に保存された微化石が,母岩中のそれよりも質の高い生層序学的情報を提供することは注目に価する.
【文献】
Kikukawa et al.,2022,InterRad(XVI) in Ljubljana,Abstr. 51-52.
中嶋・渡辺,2005,5万分の1地質図幅「富津」.
澤田ほか,2009,地質雑,115,206-222.
柴田ほか,2021,神奈川博調査研報(自然),16,69-106.