[T15-P-31] Wave ripple cross-lamination of the Ueno Formation in the Kobiwako Group, central Japan
Keywords:Pliocene, Kobiwako Group, paleo-lake
【はじめに】 滋賀県から三重県の近江盆地および伊賀盆地付近に分布する鮮新―更新統の古琵琶湖層群は,約440万年前から約35万年前の淡水域の堆積物で構成され(里口,2018),現在の琵琶湖へつながる過去のその地域における淡水環境の古環境情報を保持している.また,古琵琶湖層群は,現在の琵琶湖湖底堆積物へも時代的な連続性をもつことから,現在の琵琶湖やその周辺環境の形成史や地史を考える上でも重要といえる.その中で,現在の琵琶湖に生息する固有種の中には,遺伝子解析からみた分岐年代が,琵琶湖北湖が形成された40万年前よりも以前にあるものが複数知られており(Kakioka et al., 2013など),現在の琵琶湖における生物相の形成を考える上で,古琵琶湖層群から産出する化石以外にも,過去の環境変化が生物の進化や絶滅に影響を与えていることが推定されることから,その環境を詳細に明らかにすることが,現在の生物相の形成を考える上でも重要といえる.しかしながら,現世を研究対象としている生物学研究者が必要としている環境情報のうち,地層から得られる古環境情報は比較にならないほど限定的であり,ほとんどの場合は使い物にならない程度である.それは,地質学で得られる情報の少なさに由来するが,大局的にみてどんな環境だったのか?といったことを明示できない点にある.たとえば,湖環境でいえば,その湖の広さや深さといった情報であり,古琵琶湖層群からは,一部の時代の湖は岩礁帯を持っていたことや砂浜を持っていたことを示唆する研究もあるが(川辺,1994),それらも断片的である.地質学が生物学などの異分野の研究と議論し合えるようになるためには,自らの分野で得られた研究結果を,互いに必要とされる情報の提示をする必要がある 本研究では,古琵琶湖層群下部の上野層を対象に,古琵琶湖層群から理解される最初期の湖について,湖岸付近で形成されたと考えられる地層から当時の湖について検討した結果を報告する.
【上野層】 古琵琶湖層群の層区分において,上野層は古琵琶湖層群最下部の層であり,約440万年前から約350万年前の堆積物からなり,三重県伊賀市付近に広く分布し,旧大山田村にあたる地域の服部川河床には安定した湖で堆積したと考えられる泥質層が分布している(里口,2015).その上部にあたる地層が伊賀市真泥に分布し,服部川II火山灰層の約380cm上位の極細粒砂層と有機質泥層の薄互層中にウェーブルリップル葉理がみられる.クレストが明瞭な葉理からは,波高が4〜8mm,波長が36〜44mmであり,それらを構成する砂は,滋賀県立大学のレーザ回折式粒度分析装置を用いて分析したところ,中央粒径42.9µm,モード粒径38.84µmであった.クレストの伸びる方向は,北北東-南南西であった.層相からは,その水深を検討することができず,葉理を形成した波の性質もわからないが,クレストの伸びる方向および,湖堆積物がその地点から東側に分布していることから,西北西方向に打ち寄せる波であったと考えられる.旧大山田村の地域には,塊状の泥層が分布しており,おおむねその分布範囲付近が当時の湖の分布範囲と考えられる.伊賀市中村付近で観察される喰代II火山灰層は,洪水流によって上流から流されてきた火砕物からなり(里口,2015),その層厚から考えると少なくとも3mの水深があったと考えられる.泥層の分布は,主に服部川河床で観察され,その年代から推定される湖の期間は,少なくとも約400万年前から約360万年前の40万年間は存在したことになる.現在知られている泥層の分布からは現在の琵琶湖よりもかなり小さいと考えられるが,前述のとおり波によるリップルを構成する程度の広さを持っていたことが推定される.
【文献】Kakioka et al., 2013, Environmental Biology of Fishes 96, 631-644.;川辺孝幸,1994,琵琶湖自然史研究会編,琵琶湖の自然史,八坂書房,25-72.;里口保文,2015,地質学雑誌,121,125-139.;里口保文 , 2018,琵琶湖博物館ブックレット,7,サンライズ出版,p118.
【上野層】 古琵琶湖層群の層区分において,上野層は古琵琶湖層群最下部の層であり,約440万年前から約350万年前の堆積物からなり,三重県伊賀市付近に広く分布し,旧大山田村にあたる地域の服部川河床には安定した湖で堆積したと考えられる泥質層が分布している(里口,2015).その上部にあたる地層が伊賀市真泥に分布し,服部川II火山灰層の約380cm上位の極細粒砂層と有機質泥層の薄互層中にウェーブルリップル葉理がみられる.クレストが明瞭な葉理からは,波高が4〜8mm,波長が36〜44mmであり,それらを構成する砂は,滋賀県立大学のレーザ回折式粒度分析装置を用いて分析したところ,中央粒径42.9µm,モード粒径38.84µmであった.クレストの伸びる方向は,北北東-南南西であった.層相からは,その水深を検討することができず,葉理を形成した波の性質もわからないが,クレストの伸びる方向および,湖堆積物がその地点から東側に分布していることから,西北西方向に打ち寄せる波であったと考えられる.旧大山田村の地域には,塊状の泥層が分布しており,おおむねその分布範囲付近が当時の湖の分布範囲と考えられる.伊賀市中村付近で観察される喰代II火山灰層は,洪水流によって上流から流されてきた火砕物からなり(里口,2015),その層厚から考えると少なくとも3mの水深があったと考えられる.泥層の分布は,主に服部川河床で観察され,その年代から推定される湖の期間は,少なくとも約400万年前から約360万年前の40万年間は存在したことになる.現在知られている泥層の分布からは現在の琵琶湖よりもかなり小さいと考えられるが,前述のとおり波によるリップルを構成する程度の広さを持っていたことが推定される.
【文献】Kakioka et al., 2013, Environmental Biology of Fishes 96, 631-644.;川辺孝幸,1994,琵琶湖自然史研究会編,琵琶湖の自然史,八坂書房,25-72.;里口保文,2015,地質学雑誌,121,125-139.;里口保文 , 2018,琵琶湖博物館ブックレット,7,サンライズ出版,p118.