The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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共催:富士フイルム 富山化学株式会社

[SO8-2] 認知症診療における原因疾患診断の重要性

○眞鍋 雄太1 (1. 神奈川歯科大学附属病院 認知症・高齢者総合内科)

【略歴】
2001年:
藤田保健衛生大学(現 藤田医科大学) 医学部 卒業
2008年:
藤田保健衛生大学大学院 内科系医学研究科博士課程 卒業
2009年~2011年:
東京都医学総合研究所(神経病理学部門)へ国内留学
2011年:
藤田保健衛生大学病院 総合診療内科 講師
2012年:
順天堂高齢者医療センター PET-CT認知症研究センター 准教授
2013年:
横浜新都市脳神経外科病院 内科認知症診断センター 部長
2017年:
藤田保健衛生大学 医学部 救急総合内科 客員教授
2018年:
現職

認知症性疾患を対象とする専門外来、「もの忘れ外来」に従事していると、実に多くの主訴“物忘れ”患者と出会う。ところが、同じ訴えであっても、神経学的診察および一般身体診察を行い、神経心理学検査や血液生化学検査、脳波検査、MRIおよび脳血流シンチグラフィ等、各種検査を行って得られる臨床診断病名は一様でない。これは、“物忘れ”という表現型が同一なだけであって、背景の病態生理は疾患毎に異なることを意味している。表現型が同じ“物忘れ”であっても、側頭葉下部内側域の障害を背景とする“物忘れ”は記憶障害そのものであり、原因としては加齢性要因に始まり、Alzheimer病、嗜銀顆粒性認知症、辺縁系神経原線維変化性認知症といったaging-related diseaseが想定される。これとは別に、覚醒度の低下を理由に対象を意識野に捉えられず、結果として周囲に“物忘れ”との認識を持たれる場合もある。こうした機序を故とする“物忘れ”に、過労や睡眠覚醒障害、せん妄を含む意識障害やてんかん発作後朦朧状態があり、神経変性疾患としてはLewy小体病が含まれる。ここで気付きたいことは、それぞれ依って立つ病態生理が異なる疾患が表現する病態像、即ち「認知症」を、あたかも一つの疾患単位であるかのごとく一括りにして事象関連性を検討しても、意義ある結果は得られないという点である。同じことは「軽度認知障害」という病態においても言うことができ、上述同様の問題点を指摘せざるを得ない。異なる疾患による見かけ上同一な表現型の総体と事象各個との間に相関を示したところで、その知見に意味はあるのだろうか。原因疾患によりリスク因子は勿論のこと、その他の事象関連因子にも違いがあろう。それ以前に、診断医の属性如何で診断の精度、正確性に問題が生じ、場合によってはその後の認知症診療をmisleadする結果に至る危険性もある。様々な診療科が認知症に関わるようになった現在、これら懸念事項を抱えた研究デザインで事象の相関を言う報告の、何と多いことか。因みに、こうした土台自体に問題のある報告は、脳神経内科や老年精神科といった認知症性疾患診療のmain stream以外で多い印象を持つ。認知症性疾患を対象とする以上、これに携わる研究者は、普く診断に至る過程を識るべきであるし、そもそもが、認知症即ち「物忘れ」というドグマから自由でなくてはならない。

本講演では、認知症という病態を再確認し、原因疾患の臨床診断に至る過程を詳説したく思う。