The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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認定医審査ポスター

ライブ

認定医審査ポスターG4

Sat. Nov 7, 2020 3:10 PM - 5:10 PM C会場

[認定P-23] 抗凝固療法中の患者に補綴前処置として多数歯抜歯を行った症例

○南 慎太郎1 (1. 東北大学病院 総合歯科診療部)

【緒言】

高齢者の増加により、心疾患をはじめ、循環器疾患を抱える患者が多くみられ、歯科的観血処置により、術後に偶発症や合併症を引き起こすことがある。本症例では、上下顎にわたり、保存困難な歯が存在する患者に対して、患者の全身状態と安全に配慮した上で、抜歯術を行い、その後の咬合回復で良好な経過が得られたので報告する。



【症例】

65歳、女性。下顎左側臼歯部ブリッジの動揺による咀嚼障害を主訴に来院。全身既往として、1980年頃に左頸動脈の高安動脈炎(大動脈炎症候群)を発症し、同動脈の人工血管置換術と同動脈の再感染による再手術、その後、大動脈弁閉鎖不全により1999年に大動脈弁置換術を行っている。現在、かかりつけ医でフォロー中であり、常用薬は、降圧薬・抗凝固薬である。診査の結果、当該部位以外に、上顎右側および左側臼歯部にも、歯根破折や重度慢性歯周炎による保存困難な歯がみられた。



【経過】

 処置前に全身状態や血液データを確認するためにかかりつけ医に対診を行った。出血傾向を示す血液データは、プロトロンビン時間は26.1secで、PT-INR値は2.24であった。抜歯部位は下顎左側5、7、上顎右側3、6、上顎左側7の合計5本とし、上下顎で日を改めて抜歯を行った。抜歯当日は処置前の昼食を指示し、抜歯処置は、抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドラインと感染性心内膜炎(IE)予防のガイドラインに従い、ワーファリン継続下・術前抗菌薬(アモキシシリン2.0g)投与下で、生体監視モニターを用いながら、低侵襲処置を心掛けた。術中の血圧変動も概ね安定し、安静状態での処置ができた。抜歯後は樹脂製で残存歯被覆型の止血床を装着し、数日間装着するように指導した。その後、抜歯窩上皮が形成された段階で、治療用義歯を装着し、粘膜調整処置を数回行い、最終補綴を行った。治療用義歯には疼痛などはなかったが、患者から上顎口蓋部の義歯床に舌前方が触れが気になるとの訴えがあったので、上顎義歯にはパラタルバーを使用した。



【考察】
 主訴以外の保存困難な歯にも同時期に対応したことは、IE予防の観点から非常に有益であったと思われる。患者は以前に、抜歯経験があり、その際に止血に時間がかかったことを申告していた。今回は医科と情報共有し、事前に抜歯後に想定される症状に適切に対応したことで安全で確実な処置が可能になったと思われる。