The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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認定医審査ポスター

ライブ

認定医審査ポスターG6

Sun. Nov 8, 2020 11:40 AM - 2:00 PM B会場

[認定P-35] 左半側空間無視により義歯着脱が困難であった一症例

○高木 幸子1 (1. 広島市立リハビリテーション病院 歯科)

【緒言】
左半側空間無視は左側にある対象を無視する症状で、右半球損傷患者の4割程度で発現するとされている。これまで、脳卒中患者の麻痺に伴う口腔機能低下や口腔内環境の悪化に着目した報告は多いものの、高次脳機能障害による問題を検討したものは少ない。今回演者は左半側空間無視により義歯着脱が困難であった症例を経験したので、ここに報告する。

【症例】
70歳男性。右視床出血を発症し急性期保存的加療後、21日目にリハビリテーション目的で当院に転院となった。入院当日、義歯着脱の困難を主訴として当科を受診、左半側空間無視、左上下肢麻痺、注意障害などが認められた。口腔内は上顎左側4~7、下顎右側4~7、左側67欠損で、上下部分床義歯を持参していた。転院時ミキサー食を摂食していたが、嚥下造影検査を実施したところ、口腔から咽頭への送り込み障害により口腔期が延長していたものの、誤嚥や咽頭残留などは認められず、食形態の向上に向けた言語聴覚士による摂食訓練を指示した。

【経過】
左半側空間無視のため装着時、先に入れなければならない左側口角に対する意識はなく、義歯の挿入は困難な様子であった。鏡をみせて誘導しながら左側の意識付けを行い、繰り返し義歯の着脱を練習させることで、1週間程度で着脱ができるようになった。そこで、手指の動きに合わせて上下患側のクラスプ位置を健側に2歯分移動させて上下義歯を新製した。咽頭への送り込み障害を改善するため、上顎義歯は口蓋を被覆して舌接触補助床の機能を付与した。義歯新製後は円滑に義歯の着脱もできており、食塊移送の改善に伴い食事時間も短縮し、食形態も軟菜軟飯一口大へと変更することができた。

【考察】
本症例では、舌接触補助床としての効果も認められたため、義歯を装着できることは患者の口腔機能回復において重要であったと思われる。日常生活の自立がリハビリテーションの統一した目標であったため、義歯も自力で着脱できるように指導した。左半側空間無視では左側への意識付けを再獲得できるかが鍵となるため、繰り返しの訓練を行うのとともに、残存している能力に合わせてクラスプ位置を設計した。本症例では視床出血であったため、左半側空間無視が改善する可能性があり、義歯着脱が自力で行えるようになったものと考えている。