The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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症例・施設

[P一般-104] 認知症終末期における食支援―家族の思いに寄り添い支援した一症例

○村田 志乃1 (1. 公益社団法人渋谷区歯科医師会 渋谷区口腔保健支援センター プラザ歯科診療所)

【目的】
 認知症終末期は嚥下障害の進行により経口摂取が困難になる場合が多く、しだいに食べられなくなる患者に対して、家族は不安を抱える。今回、家族の思いに寄り添い支援を行った認知症終末期の1症例を報告する。
【症例の概要と処置】
 80歳、男性。76歳時にアルツハイマー型認知症と診断された。2014年8月、誤嚥性肺炎で入院。胃瘻造設を勧められたが、妻は経口摂取を希望し退院。2015年1月、主治医より摂食嚥下機能評価を目的に紹介され、同年2月より訪問歯科診療を開始した。初診時は、車椅子にて全粥、嚥下調整食学会分類2013コード3、水分ゼリーを全介助で摂取しており、1日に8~10回吸引を行っていた。VEでは、安静時に咽頭内に唾液の貯留を認めた。摂食時は全粥・副菜の咽頭残留を認め、水分ゼリーは嚥下反射惹起遅延を認めた。妻の介助ペースが速く、誤嚥を認めたため、ペースコントロールと交互嚥下を指導した。FASTは7c(歩行能力の喪失)で、今後も嚥下機能の低下が予想されたため訪問歯科診療による食支援、口腔管理を行った。
【結果と考察】
 介入2ヶ月後から座位保持困難、傾眠傾向となり、食事中も覚醒が保てないことが増加した。介入4ヶ月目のVEにて、全粥の咽頭残留と嚥下後誤嚥を認めたため、ミキサー粥に変更した。妻は覚醒している間にしっかり食べさせたいという思いが強く、交互嚥下を忘れたり、無理に食べさせようとしたりする様子が見られた。摂取量の負担を軽減するため濃厚流動食の利用を開始した。介入5ヶ月後、覚醒時間が短くなるにつれて摂取量が減少し、たびたび発熱を繰り返した。妻の「しっかり食べて栄養をとって欲しい」という思いを傾聴し、栄養価の高いメニューを提案したり、本人の負担を考慮した摂取量についてアドバイスを行った。同月末に誤嚥性肺炎で入院。経口摂取継続は困難との判断にて中心静脈栄養となり2ヶ月後に退院した。主治医からは余命2~3ヶ月と告げられた。訪問歯科では週に1度の口腔ケアを継続したが、介入から12ヶ月後に自宅にて亡くなった。妻が作ったものを食べさせるという行為が、認知症の夫とのコミュニケーションとなっていたが、しだいに摂取量が減り、発熱を繰り返す様子を目の当たりにして、妻の不安は募っていった。認知症終末期の食支援では、家族の話を十分に聞き、その思いに寄り添い支援することが大切であると感じた。