一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会

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症例・施設

[P一般-106] 摂食嚥下障害を有する進行性核上性麻痺患者に対して人生最終段階まで口腔健康管理を行った一症例

○田中 章寛1 (1. 東京都立心身障害口腔保健センター)

【目的】 

進行性核上性麻痺(以下PSP)は中年期以降に発症し、初期からの転倒を伴う姿勢保持障害、認知症などを特徴とする不可逆的な進行性の神経性疾患で嚥下障害の原因にもなる。今回、老人ホーム入所者に義歯補綴及び摂食機能療法を行い、経過中にPSPと診断され胃瘻造設後も最期まで口腔健康管理を行った症例について報告する。本症例報告は御家族、老人ホーム施設長の同意を得ている。

【症例の概要と処置】 

71歳男性。脳梗塞に伴う失語症、構音障害、高次脳機能障害があるものの独歩、簡単な会話可能、要介護度3、BMI22.3。2016年6月、歯科訪問診療初診時に施設職員から「食形態や摂食行動について評価をしてほしい」との依頼で食事状況の評価を行った。口腔衛生状態不良、臼歯部の咬合はなく義歯の使用はなかった。指導では咀嚼の動きがないため副食を常食から刻み食への変更を提案。2日目、外来にてエックス線写真撮影を行い、口腔機能回復を目的に義歯作製、摂食機能療法及び継続的な口腔ケアを内容とした診療計画を立案。10月PSPと診断。2017年2月、義歯完成、装着後も違和感なく使用、移動は車イス、発声のみ、BMI22。口腔機能維持のため義歯装着した状態で介護士らに発声訓練の指導を指示した。2017年6月から誤嚥性肺炎での入退院を繰り返し施設側で副食をペースト食に変更。12月のVE評価では咽頭残留、唾液貯留及びペースト食を誤嚥する危険が高いと診断し経口摂取中止を施設に伝えたが、後見人の姪の希望で経口を継続した。そこで、2018年1月より経口維持支援を目的に多職種連携で栄養指導や口腔ケアを含む経口維持計画を立てた。6月、再評価のためのVF、VEでは明確な誤嚥を認めたため改めて経口摂取中止を施設に勧め姪の了解も得た。9月、体力があるうちに胃瘻造設手術を行った。BMI17.6。退院後、介助下で昼食のみ数口程度の経口摂取を指導したが、12月に胃瘻のみの栄養摂取となり4ヶ月後老衰のため死亡した。

【結果と考察】

本症例はPSPという進行性疾患から口腔機能維持のための間接訓練、食形態及び栄養指導を行った。誤嚥性肺炎のため胃瘻となったが口腔機能管理を行い少量でも口から食べ続けることは、人生の最終段階まで人間らしく生きることであり、そのため摂食機能療法や口腔ケアを含めた継続した口腔健康管理が重要であると考えた。
COI開示:なし