一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会

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一般演題(ポスター)

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症例・施設

[P一般-110] 100歳超の患者への新義歯作成の経験

○木森 久人1,2、河野 孝栄2 (1. 医療法人社団 八洲会、2. 小田原歯科医師会)

【目的】

歯科訪問診療において,しばしば患者やその家族より聞く言葉に「(前医に)もう年だから入れ歯を作るのは無理と言われた」というものがある.実際に診察してみると,確かに口腔機能の低下は見られるがまだ義歯を新しく作ることによって口腔機能の向上が見込まれることも多くある.今回は100歳を超えて新義歯を作成した症例を施設入居者と在宅療養患者の各々1例を報告する.



【症例の概要と処置】

98歳,女性。重度心不全,変形性膝関節症の既往あり.平成25年3月,入れ歯が合わないとのことで家族より往診依頼.ケアハウス入居中のため当該施設へ往診した.平成25年5月 新義歯装着。以降義歯調整および歯科衛生士による居宅療養管理指導により良好に経過した。平成26年11月 下顎義歯をなくしたとの連絡あり。上顎義歯は経過良好のため下顎のみ新製することとした。同月 下顎新義歯装着。装着日前に100歳を迎えた。以降良好に経過し、102歳にて没。



99歳,女性.狭心症,変形性膝関節症の既往あり.平成25年7月,歯肉が痛いとのことで家族より往診依頼.居宅へと往診した.義歯調整.平成25年8月痛みの他に灼熱感、口腔内にレース様発赤がみられカンジダ症と診断。フロリードゲルを処方し軽快した。その後義歯修理を行い、良好に経過。平成26年9月入れ歯のゆるいとの訴えがあり、義歯新製することとした。平成26年10月上下総義歯装着。義歯製作着手時に100歳であった。その後良好に経過し、103歳にて没。



【結果と考察】

今回の症例に限らず,演者は100歳超の患者への新義歯作成経験がある.もっとも最高齢の患者は108歳に義歯を作成し,その方は112歳まで経口摂取で生きられた.「年だから入れ歯は無理」という判断を歯科医師がしてしまえば,当人や家族にとっても「入れ歯は無理」となってしまう.大げさかもしれないが,今回の症例のように新義歯を作成できた場合,これは誤診とも言える.患者側の問題で義歯を作ることができないのか,それとも歯科医師側の問題で義歯を作ることができないのか.これについてはしっかりとした患者の全身状態や口腔機能の診査が必要であり、場合によってはセカンドオピニオン先の紹介なども考慮すべきである。そしてそのセカンドオピニオン先として老年歯科医学会専門医が対応することができるのではないかと考える.