The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

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症例・施設

[P一般-113] 過度な糖質制限による減量で嚥下障害を発症した高齢者に栄養指導と摂食嚥下リハビリテーションを行った一例

○長澤 祐季1、原 豪志1、柳原 有依子1、奥村 拓真1、川勝 美里1、黒澤 友紀子1、小原 万奈1、戸原 玄1 (1. 東京医科歯科大学高齢者歯科学分野)

【目的】
糖質制限ダイエットは気軽なダイエット方法として広く浸透している。しかし高齢者における過度な糖質制限は低栄養を招き筋力低下や身体障害の原因となる危険性もある。今回我々は過度な糖質制限で急激な体重減少を招き嚥下障害を発症した高齢者に対して適切な栄養指導とリハビリテーションを行い,嚥下機能を回復させた一例を経験したので報告する。
【症例の概要と処置】
78歳男性,高血圧症と8年前に陳旧性脳梗塞の既往があったが,後遺症なく常食を摂取していた。2019年7月から主治医より体重過多を指摘され,糖質制限を勧められた。体重が2ヶ月で8kg減少し,会話の最中や食事中のむせや嚥下困難感を自覚し2019年11月に当科を受診した。身体所見は体重73kg,握力右18.2kg,左16.2kg,四肢骨格筋指数7.69,BMI25.3,身体障害や脳梗塞に伴う脳神経麻痺はなかった。舌圧20.9kPa,嚥下造影検査にて液体をコップで摂取してもらったところ,誤嚥を認めた。糖質制限に伴う急激な体重減少が嚥下障害の原因となっていると考え食事量や内容を通常に戻すよう指示し舌の筋力強化訓練を指導した。1ヶ月後再診時に体重(72.8kg)は増加なく,握力(右20.5kg,左17.3kg),四肢骨格筋指数(8.24),舌圧(25.9kPa)は増加した。嚥下内視鏡にて着色水の誤嚥有無を検査したところ誤嚥は認められず,自覚的な嚥下困難感は消失した。さらに同再診に栄養士による食事指導を行った。3回目の再診では体重,四肢骨格筋指数,舌圧の項目がさらに増加し,嚥下造影検査にて液体のコップ摂取で誤嚥は認めなかった。
【結果と考察】
糖質制限解除,舌筋への筋力強化訓練,栄養指導により体重,握力,四肢骨格筋指数,舌圧に改善が見られた。3回目の再診時には患者自身もむせの改善を自覚し,普段食事への不安もなくなったとのことだった。炭水化物は一日に必要なエネルギーのうち半分以上を占める。必要エネルギーの不足が続くと飢餓状態となり,筋肉を中心とした体タンパクの分解がおこるため,筋肉量や筋力は低下していく。本症例の患者も,糖質制限により低栄養状態となり,身体と嚥下関連筋群の筋肉量や筋力が低下し障害が引き起こされたと考える。このような症例において筋力強化訓練と並行した低栄養の改善,また栄養士と連携した栄養指導が重要であることが示唆された。