The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

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口腔機能

[P一般-027] 高齢期の食欲が唾液分泌に与える影響の検討 ―地域在住高齢者における6年間の縦断研究―

○小原 由紀1、白部 麻樹2、本川 佳子1、枝広  あや子1、渡邊 裕1,3、平野 浩彦1、大渕 修一4 (1. 東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム、2. 東京都健康長寿医療センター研究所 東京都介護予防推進支援センター、3. 北海道大学大学院歯学研究科 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室、4. 東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム)

【目的】 
 唾液は様々な作用を有することから、唾液分泌低下による口腔乾燥は、歯科疾患のリスク因子となるだけでなく、QOLに直結した問題となると考えられる。口腔乾燥は、全身疾患や服用薬剤や心理社会的要因が関連するとの報告はあるが、口腔機能と密接に関連すると考えられる食・栄養がもたらす影響について検討しているものはほとんどない。そこで本研究では、食・栄養に関する指標の一つとして食欲に注目し、唾液分泌に与える影響について、地域在住高齢者を対象とした6年間の縦断データを用いて検討を行った。
【対象および方法】
 2013年および2019年に東京都I区にて実施した来場型健診「板橋お達者健診」に参加した地域在住高齢者336名のうち、ベースライン(以下、BL)である2013年時点で唾液分泌低下を認めなかった221名(男性81名、女性140名、平均年齢72.3±4.9歳)分のデータを分析対象とした。安静時唾液分泌量は、舌下にロールワッテを留置し、30秒間の吸収量を計測し、0.1mg未満を唾液分泌低下群(以下、低下群)とした。食欲の評価は、シニア向け食欲調査票日本語版(以下、CNAQ-J)を用いた。2019年時の唾液分泌量低下の有無を従属変数、BL時のCNAQ-Jのスコアを独立変数、年齢、性別、現在歯数、体格指数、既往歴、服用薬剤、うつ性自己評価尺度(以下、SDS)、喫煙習慣(すべてBL時)を調整変数としたロジスティック回帰分析を用いて分析を行った。本研究は、東京都健康長寿医療センター研究部門倫理委員会の承認(R1-迅15)を得て実施した。
【結果と考察】
本研究の対象者のうち、低下群は19.0%(43名)で、男女間で有意差は認められなかった。ロジスティック回帰分析の結果では、他の要因の影響を調整しても、低下群は正常群と比較して、CNAQ-Jのスコアが有意に低い結果を示した(オッズ比:0.843、95%信頼区間:0.717 - 0.990)。
 以上の結果より、6年間の観察期間において、安静時唾液分泌の低下には、食欲が影響していることが明らかとなった。食事に対する意欲の減退が口腔機能の不活動をもたらし、唾液分泌低下につながったと考えられる。高齢期における口腔保健の維持向上のためには、個々の口腔機能の向上のみならず、食に関わる心理・環境面も含めた包括的なアプローチが必要であると考えられた。
COI開示:なし