一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会

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全身管理・全身疾患

[P一般-097] 感染性心内膜炎ハイリスク患者に対し抜歯および補綴治療を行った症例

○上田 圭織1、久保田 一政1、猪越 正直1、水口 俊介1 (1. 東京医科歯科大学高齢者歯科学分野)

【目的】

 心臓弁膜症の罹患者数は推計200〜300万人と言われており、超高齢社会の日本においては今後更に増加すると考えられる。心臓弁膜症患者に対する歯科治療では感染性心内膜炎の発症を予防することが重要である。今回、感染性心内膜炎ハイリスク患者に対し全顎的な抜歯、及び補綴処置を行った1症例について報告する。



【症例および処置】

 75歳女性。リウマチ熱、大動脈閉鎖不全症に対して機械弁置換、僧帽弁形成術、心房細動の既往がある。近医心臓血管外科より紹介され、2018年11月に当科初診となった。

 歯科的既往歴として、近医での歯周病に対するメンテナンス治療を行っていたとのことであった。

 X線写真、歯周ポケット検査から抜歯部位を決定し、2018年11月末から2019年1月末にかけ予後不良歯の抜歯と感染根管治療等のう蝕処置を行い、同年4月より義歯製作を開始し、6月に新義歯を装着した。



【結果と考察】

 現在、義歯の調整を行うとともに、固定性補綴装置の製作を行っている。今後、最終補綴装置の製作を行う予定である。

 本症例では、基礎疾患として感染性心内膜炎のハイリスク要因である人工弁置換の既往があった。菌血症のリスクは、抜歯等の観血的処置だけでなく、ブラッシングでさえ23%もあるため、プラークコントロールの重要性を患者に理解させる事、清掃しやすい形態の補綴装置を製作し、不適合な補綴装置の改善を行う事が感染性心内膜炎の予防に重要であると考える。

 また、抜歯や出血を伴う縁下スケーリング等の観血的処置を行う際には、術前の抗菌薬投与が必須の為、医科担当医に対診し、心臓弁膜症の状態やアドレナリン含有局所麻酔薬を使用可能な心機能か、血液凝固阻止剤等の服薬状況を確認する等、医科との連携を密接に行うべきである。

 抜歯を含む歯科小手術を行う際、血液凝固阻止剤の中止は、血栓を生じさせ、脳梗塞等のリスクを高める為、内服を継続するのが望ましい。小手術の際には、止血シーネの準備や縫合を行う等、止血に充分留意するべきである。また、設備等の問題で然るべき処置が困難な場合には、高次医療機関への紹介を行う等、適切な処置を施すことが非常に重要である。

本症例では一般開業医での弁膜症患者に対する認識が不足していることにより、生じた事例である。今後も高次医療機関として医科と連携し積極的な介入および啓蒙を行いたいと思う。


(COI開示:なし)