一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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認定医審査ポスター

2021年6月11日(金) 14:30 〜 16:30 認定医Line3 (Zoom)

[認定P-18] 義歯使用経験のない慢性心不全患者に舌圧を参考にして義歯を製作した症例

○陣内 暁夫1、内藤 徹2 (1. 医療法人井上会篠栗病院歯科、2. 福岡歯科大学総合歯科学講座高齢者歯科学分野)

【緒言】義歯装着が栄養状態や摂食嚥下に及ぼす影響が報告されている。また、われわれは以前、咬合高径を挙上した新製義歯の使用により舌圧が低下した症例を報告した。今回、舌圧を参考に咬合高径を決定した一例について報告する。

【症例】70代、男性。X年6月、発熱、食思低下を主訴に当院内科受診し、検査の結果、大動脈弁閉鎖不全症、僧房弁閉鎖不全症と診断され入院となった。口腔内は上顎無歯顎、下顎は前歯が4歯残存し、うち2歯は残根状態で、義歯は使用していなかった。なお、本報告の発表は患者本人から文書による同意を得ている。

【経過】心臓カテーテル検査の結果、大動脈弁閉鎖不全症に対し高次医療機関で、大動脈弁置換術を行う方針となった。食思低下、低アルブミン血症によりNST介入となり、回診時の口腔内診査時に義歯作製を希望された為、上下義歯を作製した。上顎総義歯、下顎部分床義歯の製作時、蠟義歯試適時に患者より唾液が飲み込みにくいとの訴えがあった。RSSTは3回で、舌圧を測定したところ、蠟義歯未装着時(24.6kPa)に比し、蠟義歯装着時は15.3kPaと著明に低下した為、咬合高径を減じて再度咬合採得を行い、義歯を完成した。完成義歯装着時の舌圧は22.7kPaであった。退院後も外来受診時に義歯調整を行いX年8月、高次医療機関への入院時に終診となった。X+1年4月、下顎前歯2歯の破折を主訴に再来された。同日、下顎義歯の増歯修理を行い、6月、アモキシシリン2.0g前投薬下に抜歯を行い、7月、下顎総義歯を作製した(舌圧22.3kPa)。その後は、内科受診時の定期受診としていたが、X+3年12月、上下総義歯を新製した。義歯完成後、口腔機能精密検査を行ったところ、2項目(舌口唇運動機能低下、低舌圧・22.8kPa)が該当した。現在も内科受診時に定期受診を継続している。

【考察】本症例では短期間の入院期間に歯科介入し、咬合回復を図った。患者は義歯使用の経験はなく、咬合採得時は術者が患者の下顎安静位と設定した顎位より3mm程度減じた位置で咬合採得を行ったが、本症例においては不適切であった。咬合採得時に舌圧測定し、定量的な評価を行うことが、咬合高径決定に有用である可能性が示唆された。舌圧は基準値である30kPaを下回っているが、今回は過去の報告を参考に20kPaを基準とし、舌の訓練等は行っていない。