一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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口腔機能

[P一般-041] 菓子を用いた咀嚼訓練が高齢者の咬合力に及ぼす影響

○西﨑 仁美1、飯田 貴俊1、林 恵美1、美久月 瑠宇1、田中 洋平1、杉山 俊太郎1、辰野 雄一1、原 豪志1、森本 佳成1 (1. 神奈川歯科大学)

【目的】
 近年高齢の摂食嚥下障害患者が増加しており, 準備期障害や口腔期障害への対応として咀嚼訓練が注目されてきている。本研究では菓子の「硬さ」に注目し, 個人に適した硬さの菓子を用いた咀嚼訓練を1 週間行い, 口腔機能への効果について検討を行った。
【方法】
 対象は,令和1年11月~同2年8月に神奈川歯科大学附属病院全身管理高齢者歯科に受診した65歳以上の外来および在宅訪問診療患者で, 口腔機能低下の自覚があり, 義歯の使用に限らず一側ないし両側の咬合支持を有し, かつ嚥下機能が臨床的重症度分類 3 : 水分誤嚥以上の者27名であった。アレルギーを有する者と指示理解が不十分な者は除外とした。介入群と対照群を設け, 糖尿病患者を対照群に振り分けた非ランダム化比較試験を実施した。6 種類の硬さの異なる菓子 (ポテトチップス (カルビー), 柿の種 (柿, ピーナッツ) (亀田製菓), ハッピーターン (亀田製菓), 炭火焼 (安藤製菓), 技のこだ割り (亀田製菓))を準備した。介入群には菓子6 種類を軟らかい順に食べさせ, 「噛めるが噛みにくい」と感じた1種類を訓練用菓子に選択し, 1日約5g食べる訓練を1週間行った。対照群には訓練や食事制限は行わなかった。両群ともに試験開始前に咬合力検査, 舌圧検査, 咀嚼能力検査を行い, 1 週間後に再度検査を行ったのち同一群内で試験前後の比較を行った。
【結果と考察】
 5 名が試験期間に脱落し, 最終的に介入群18 名(平均年齢77±5歳, 男性11名)、対照群9 名(平均年齢80±7歳, 男性6名)となった。対照群では試験前後で有意な変化を認めなかったが, 介入群において咬合力が有意に増加した(前:462[186-567]、後:494[247-740]中央値[四分位])。これは通常の活動強度より大きな負荷を与えると筋力が増加する「過負荷の法則」に従い, 個人に適した硬さの菓子を選択し訓練を行ったためと考えられる。一方, 介入群の舌圧と咀嚼能力は有意な変化はなかった。煎餅は吸水性を示し唾液と混和されることで早期に食塊になりやすいため, 舌に適切な負荷が加わらなかった可能性がある。また, 咀嚼能力を向上するには訓練期間が足りなかったと考えられる。本研究より, 個人に適した硬さの菓子を一週間摂取することが, 低下した咬合力の向上に有用である可能性が示唆された。
(COI開示:なし)(神奈川歯科大学 倫理審査委員会承認番号 614)