一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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連携医療・地域医療

[P一般-045] 退院支援過程において医療ソーシャルワーカーの歯科疾患に対する理解度が課題となった一例

○吉野 夕香1,2、末永 智美3,4、金本 路3、植木 沢美3、會田 英紀5、川上 智史6 (1. 北海道医療大学病院 医療相談・地域連携室、2. 北海道医療大学大学院歯学研究科保健衛生学分野、3. 北海道医療大学在宅歯科診療所、4. 北海道医療大学大学院歯学研究科高齢者・有病者歯科学分野、5. 北海道医療大学歯学部高齢者・有病者歯科学分野、6. 北海道医療大学歯学部高度先進保存学分野)

【目的】

高齢者において下顎骨周囲炎や下顎骨骨髄炎を発症する症例は少なくなく,特に骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)が侵襲的歯科治療との関連で多く報告されている。また,高齢者は入院時の要介護状態の評価を契機として,退院支援が必要となる場合もある。今回,入院患者の退院支援過程において,医療ソーシャルワーカー(MSW)のARONJに対する理解度が課題となった一例を報告する。

【症例の概要と処置】

 85歳女性。傷病名:高血圧症,陳旧性脳梗塞,骨粗鬆症。令和2年1月他院にて抜歯後,長期に渡り出血の自覚があった。同年7月下顎のできものを主訴に当院歯科口腔外科受診。定期的なビスホスホネート製剤の投与歴と,CT画像所見により下顎骨全体に及ぶ骨髄炎と腐骨形成を認めたため,ARONJを強く疑う下顎骨骨髄炎と診断された。患者は年齢等を理由に外科的な炎症組織の除去術には消極的で,対症療法を選択した。生活背景は,高齢の夫との2人暮らしで頼れる親族は無く,入院前から独歩での室内移動が困難となっており,最終入浴は1年前とADL低下が著明であった。退院後の自宅での介護や食形態の調整,口腔のセルフケア継続は困難との訴えがあり,介護を目的とした療養先調整を希望した。介護保険の区分変更を申請し,要介護2の認定を受けた。理学療法士より身体機能のリハビリテーションによりADLの改善が期待できるとの助言があり,リハビリテーションを目的とした療養の後に,介護保険施設に入所することを退院支援計画とした。

【結果と考察】

 治療経過でARONJと診断され,訪問歯科診療と看護師による定期的な患部洗浄による対症療法を患者が望んでいる旨情報提供し,リハビリテーションが可能な病院に転院した。しかし転院後,ARONJへの対応不可を理由に療養先の再調整の依頼があった。転院先のMSWは本症例のような,日常的な口腔のケアの範疇を超える特殊な歯科疾患に関する情報提供が十分ではなかったと抵抗感を強く示した。患者は一時的にリハビリテーションの機会が奪われる結果となり,専門性の高い歯科疾患に対するMSWの理解度が,退院支援の遂行において課題になると考えられた。ARONJは医科と歯科の連携が必要な疾患でもあり,支援介入の可能性があるMSWの歯科疾患への理解度や連携実態,情報共有状況を明らかにしていく必要があると考える。

(COI開示:なし)