一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-069] 上顎骨膜下インプラントの維持管理が困難だった認知症患者の1例

○松田 捺美1、松下 貴惠1、近藤 美弥子1、岡田 和隆1、山崎 裕1、渡邊 裕1 (1. 北海道大学大学院歯学研究院 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室)

【目的】

骨膜下インプラントシステムは、1950年代より臨床応用が盛んになった手技である。今回, インプラント周囲の慢性炎症に伴う歯肉増殖のため, セルフケアと介助による口腔衛生管理が困難になり, 除去に至った1例を経験したので文献的考察を含め報告する。

【症例の概要と処置】

 88歳, 女性。要介護度3, アルツハイマー型認知症の既往あり。令和X年X月に介護保険施設入所した際に, 訪問歯科医師の診察を受け, 上顎インプラント体の露出と動揺を認めたため, 当院口腔外科を紹介受診した。初診時, 右上4567欠損に対し骨膜下のフレームを支台としたインプラント補綴物と, 右上3, 左上34567支台歯とした補綴物が連結され, 上顎7-7が連結した大きな補綴装置が装着されていた。左上345はう蝕で失われており, 左上67は残根状態で補綴装置からは外れていた。骨膜下にあったと思われるインプラントフレームは口腔内に露出し, 周囲歯肉は慢性の炎症による肉芽組織が増殖しており, 右上3の支台歯のみ維持している状態で咬合すると上顎補綴装置は高度に動揺し, 痛みを生じさせていた。後見人は83歳の妹で, 介護者の希望は最小限の処置であった。そこで, 患者はまだ従命をとれたため, まずは局所麻酔下での骨膜下インプラントと右上3, 左上67の残存歯の抜去を施行した。

【結果と考察】

 インプラント除去後は止血の問題なく, 治癒経過は良好であった。食事に関しては, 軟食からインプラント除去後ミキサー食に変更し全量摂取している。今回経験した症例は施設入所時に上顎骨膜下インプラントが不良の状態で発見された。口腔衛生管理において, 歯磨きはセルフケアが困難で, 介助によるケアへの拒否があり, 口腔衛生状態の維持が困難であった。施設職員は口腔衛生不良によるインプラント周囲炎やインプラント体の高度動揺のため脱落による誤飲などのトラブルを懸念していた。今後は咀嚼を改善させるために, 理想的には上顎の義歯を装着のために口腔前庭拡張術が必要だが, COVID-19感染予防のため受診を中断している。また, 骨膜下インプラントを有する要介護高齢者も増加してくると思われることから, 骨膜下インプラントの維持管理方法に関して検討する必要がある。