The 32nd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

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症例・施設

[P一般-072] 摂食機能療法と顎補綴により経口摂取を再開した症例

○朝比奈 伯明1、田村 瞬至1、朝比奈 滉直1、村上 康彦1、望月 慎恭1、蓜島 弘之1 (1. 松本歯科大学地域連携歯科学講座)

【目的】

 口腔癌治療による手術後は器質的障害、機能的障害により摂食嚥下障害を呈することが多い。今回、右側上顎洞癌により口腔と鼻腔が交通している患者に対し、摂食機能療法並びに顎補綴による補綴治療を併用し、胃瘻による栄養摂取から全量経口による栄養摂取まで改善した1例を経験したので報告する。

【症例の概要と処置】

 81歳の男性。上顎洞癌の既往あり。2011年右側上顎洞癌の全摘手術を行った。その際に口腔と鼻腔に交通が生じた。2017年誤嚥性肺炎を発症し、同時期に胃瘻造設、経口摂取も禁止となる。2018年経口摂取可否の確認のため当病院へ訪問歯科診療の依頼。内視鏡における嚥下機能評価にて安静時、咽頭部唾液貯留を確認。嚥下時、咽頭収縮力低下、喉頭蓋反転不良、喉頭侵入があったが、誤嚥が頻回ではないため、間接訓練(5~10回/日の開口訓練)、直接訓練(中間のトロミ水での嚥下、嚥下後の咳払い)を開始。全摘手術直後に作製された顎義歯は長期間使用しておらず、訓練開始時、義歯の新製は本人が希望されなかった。以降、月に1回のペースで訪問歯科治療実施。訓練の量、負荷を上げながら訓練の誤りを修正。また2~3か月毎に内視鏡検査を行い、それを根拠に食上げ実施。結果、2019年には1日1回ミキサー食へと改善。経口摂取の増加により患者の意欲も改善され顎補綴を希望されたため、当院補綴科にて義歯製作を開始。まずは口蓋の欠損部を塞ぐことになれるために塞栓子を作製する。歯科用コーンビームCTにて上顎形態をスキャン後、3Dプリンターにて顎模型を作製、それを元に塞栓子を作製した。塞栓子の調整と並行して嚥下訓練を継続していった。

【結果と考察】

 塞栓子作製後、口腔から鼻腔への逆流の減少、会話明瞭度が改善され、摂食についても胃瘻を使用せず、一日三食ミキサー食が可能となった。以降塞栓子にも慣れたため顎補綴を作製する予定であったがコロナ禍のため治療を中断している。今回の症例においては印象採得に印象材を用いなかったため患者の負担軽減、誤嚥や異物侵入のリスクが回避された。また、毎日の継続的な訓練の積み重ねによる口腔機能の改善、喉頭蓋の反転頻度増加が認められた。さらに、塞栓子を用いた顎口腔形態の回復により、鼻腔へ空気が逃げなくなったため嚥下圧のコントロールが改善し、胃瘻、絶食状態からの脱却が達成できたと考えられた。(COI開示:なし)