一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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歯科衛生士部門

[P一般-033] 注水の代替として口腔ケアジェルを使用し超音波スケーラーによる歯石除去をベッド上で実施した症例

○波多野 真智子1、橋詰 桃代1、野本 亜希子2、大野 友久2 (1. 浜松市リハビリテーション病院 リハビリテーション部、2. 浜松市リハビリテーション病院 歯科)

【目的】

 重度摂食嚥下障害患者に対し,水の代わりに口腔ケアジェルを用いて超音波スケーラーを使用した。これにより誤嚥リスクを回避した歯石除去が可能となった症例を経験したので報告する。

【症例の概要と処置】

 55歳男性。脳腫瘍,小脳出血,術後性球麻痺の既往があり摂食嚥下障害と起立性低血圧が残存。経口摂取再開の希望が強く,嚥下機能改善手術目的に当院に入院。入院時,長期間にわたる非経口摂取状態および口腔内への唾液貯留により多量の歯石沈着を認めた。多量の歯石沈着を認める場合,短時間で歯石除去可能な超音波スケーラーを用いることが一般的であるが,スケーラーチップの発熱を抑える目的で水が噴射される。そのため,摂食嚥下障害患者においては冷却水の誤嚥が懸念される。本患者は重度摂食嚥下障害のため仰臥位での歯石除去は誤嚥のリスクが高く,まずは水分が咽頭に流入しにくい座位に近い体位にて,超音波スケーラーによる歯石除去を試みた。しかし,一方で起立性低血圧により,短時間の座位保持でも著明な血圧低下が認められた(臥位109/84mmHg,座位78/55mmHg)。摂食嚥下障害への対応には座位が,起立性低血圧への対応には臥位が望ましいという,相反する体位が必要とされた。そこで,岩渕らが報告した口腔ケアジェルを用いた非注水下での超音波スケーラーによる方法で臥位にて咽頭流入を防ぎつつ歯石除去を試みた。患者の負担軽減のため全顎を4ブロックに分けて処置し,バイタルサイン測定およびNumerical Rating Score(NRS)にて処置中・処置後の主観的な痛みの評価(0が痛みなし)も併せて実施した。

【結果と考察】

 4回の歯石除去処置全てにおいて血圧や酸素飽和度の低下,処置後の発熱はなく,NRSでは処置中・後ともに0であった。このことから,超音波スケーラー使用時に水の代わりに口腔ケアジェルを用いることで,デンタルプラークや歯石で汚染された冷却水の誤嚥に加え血圧低下のリスクも回避しながら,ベッド上での歯石除去を安全に実施することが可能であったと考える。今後もこのような誤嚥リスクの高い摂食嚥下障害患者や離床が困難な患者においても,口腔ケア用ジェルを使用することで安全に超音波スケーラーを用いた歯石除去が可能となることが示唆された。

(COI開示:なし)
(浜松市リハビリテーション病院 臨床倫理審査会 19-69)