一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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一般演題(口演)

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一般口演4
症例・施設2

2021年6月13日(日) 09:50 〜 10:30 Line C (ライブ配信)

座長:會田 英紀(北海道医療大学歯学部高齢者・有病者歯科学)、山崎 裕(北海道大学大学院歯学研究院 高齢者歯科学教室)

[O4-4] 眼窩内に炎症が波及した超高齢者の薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の1例

○坂詰 博仁1、高橋 悠2、小林 英三郎2、戸谷 収二3、田中 彰1,2 (1. 日本歯科大学新潟生命歯学部 顎口腔全身関連治療学、2. 日本歯科大学新潟生命歯学部 口腔外科学講座、3. 日本歯科大学新潟病院口腔外科)

【目的】

ビスホスホネート製剤(以下BP製剤)や抗RANKL抗体などの骨吸収抑制薬以外でも、血管新生阻害薬などの分子標的薬で顎骨壊死を生じることが判明し、薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)として認知され近年増加傾向にあると報告されているが、本邦において特定の治療法は確立されていない。非外科的治療に比べて外科的治療の有効性の報告が散見されるが、高齢者の場合、全身状態及び手術侵襲、また術後のQOLなどを考慮すると、外科的治療が困難な場合が少なくない。今回、上顎洞に及ぶ広範囲な超高齢者の上顎骨MRONJに対して、保存的治療中に感染が眼窩内に波及した症例を経験したので報告する。

【症例の概要と処置】

症例は91歳女性。骨粗鬆症に対してBP製剤を2年前から服用していた。現病歴:紹介医にて右側上顎歯肉の繰り返す腫脹に対し消炎療法を行うも改善しないため紹介来院となった。初診時所見として右側頬部に発赤・腫脹と右鼻翼脇に外歯瘻を認め、右側上顎23部および右側上顎67部歯肉に瘻孔と排膿を認めた。画像検査の結果、右側上顎洞に及ぶ広範囲な上顎骨MRONJ(Stage3)と診断し、治療方針として患者の全身状態及び手術侵襲、また術後の機能障害を考慮して保存的治療とし、定期的な瘻孔部の洗浄及び抗菌薬(クラリスロマイシン)の長期投与を開始した。初診から3ヶ月経過時に、右側頬部腫脹を認め、血液検査でCRP:14.81と高値を認め、CT検査で右側上顎から眼窩内に膿瘍形成を認め、即日入院し抗菌薬の静脈内投与を開始するとともに眼科に対診した。対診の結果、眼窩内膿瘍の診断で保存的治療が適応とコメントを得たため消炎療法を継続し、眼窩内の膿瘍の消失を認めたため第7病日で退院とした。現在感染の再燃なく外来経過観察中である。

【結果と考察】

眼窩内膿瘍は副鼻腔炎に起因したものが多いと報告されているが、今回の症例も上顎骨MRONJが副鼻腔炎を併発し、眼窩内に炎症が波及したものと考えられた。眼窩内膿瘍は眼窩内圧が上昇するため視力障害や複視、眼球突出などの視器症状を伴うことや、治療が遅れると視力障害が残存することもあるが、本症例は視力障害や後遺症無く消炎可能であった。超高齢者の進展したMRONJに対しては、外科的治療が困難な場合が多く、本症例は根治的な治療が困難なため、今後も感染再燃の可能性があり慎重に経過観察を行っていく必要がある。