[SSY-6] 高齢者歯科の立場から:超高齢期における歯と口腔機能の問題点
![](https://confit-sfs.atlas.jp/customer/gero32/SSY-06.png)
1987年 大阪大学歯学部卒業
1991年 大阪大学大学院歯学研究科修了
1998年 大阪大学歯学部附属病院咀嚼補綴科 講師
1999年 文部省在外研究員としてUniversity of Iowa (USA)にて研究に従事
2015年 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座 准教授
2015年 IADR Distinguished Scientist Award for Geriatric Oral Research
2018年 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座 教授
長寿の条件として,長らく生活習慣病を予防することが挙げられてきた.最近では,健康寿命の延伸にフレイルと認知症を予防または遅延することが注目されている.この3つのいずれにも歯が関連することは明らかであり,自立した高齢者では,歯の健康は心身の健康に良い影響を与えることは疑う余地がない.しかしそれ以降の超高齢期・要介護期ではそう単純ではない.
100歳を超える人は全国で8万人を超えた.1990年生れの人は,男性の4割,女性の2/3以上が90歳まで生き,さらに女性については2割の人が100歳まで生きると予測されている.政府も「人生100年時代」を謳い,教育,経済,労働,社会保障面で様々な施策を検討している.と言うことは,非常に厳しい時代が来るものと私は解釈している.
日本では,2001年からの15年間で健康寿命は男性が2.7年,女性が2.1年伸びたが,それ以上に寿命も伸びた.すなわち,健康寿命の延伸は,要介護期間の延伸までもたらしたことになる.自立している人の割合は,95歳以上では男性で約30%,女性で約15%とされる.要介護や認知症は,長生きすればほぼ全ての人に起こる普遍的な問題である.
われわれの疫学研究では,100歳以上の人(n=84)のうち,上下無歯顎者が約3/4を占め,そのうち約1/3が義歯を使用していなかった.この点からすれば,歯や補綴歯科治療が百寿に貢献しているとは言い難い.一方,90歳の人(n=896)の歯数は年々増え続けている.また,3年毎の会場調査に継続して参加された人には,歯の多い人が多いことから,歯数が超高齢者の健康維持に関連していることが示唆される.口腔機能の個人内変化をみると,咬合力は歯数による影響が強く,加齢による変化は有意ではなかったが,舌圧は歯数に関係なく,加齢によって有意に低下した.
以上のことから,今後は,歯数が多く,口腔衛生管理が自立不能な超高齢者が増え,う蝕や歯周病の治療のニーズが高まると考えられる.また,本学会員には釈迦に説法であるが,終末期に向かって心身状態の低下を伴った口腔乾燥や嚥下機能低下の患者が増え,多職種連携が益々重要になる.
我々としては,超高齢期の歯や口腔機能の問題点を市民に分かりやすく説明し,ライフコースにわたる口腔衛生・口腔機能管理に導く.自立の保たれているうちに,一般的には75歳までには,診療室で歯と義歯の治療を終え衛生管理が容易な状態を確立し,口腔機能低下が必至である要介護期に備える.治療に制約のある訪問治療に過度な期待を抱かせない.これらのことは,歯科医療従事者であれば誰でも考えていることであるが,社会への浸透は十分であるとは言えない.求められるのは,エビデンスに基づいた継続的で強い発信力である.
100歳を超える人は全国で8万人を超えた.1990年生れの人は,男性の4割,女性の2/3以上が90歳まで生き,さらに女性については2割の人が100歳まで生きると予測されている.政府も「人生100年時代」を謳い,教育,経済,労働,社会保障面で様々な施策を検討している.と言うことは,非常に厳しい時代が来るものと私は解釈している.
日本では,2001年からの15年間で健康寿命は男性が2.7年,女性が2.1年伸びたが,それ以上に寿命も伸びた.すなわち,健康寿命の延伸は,要介護期間の延伸までもたらしたことになる.自立している人の割合は,95歳以上では男性で約30%,女性で約15%とされる.要介護や認知症は,長生きすればほぼ全ての人に起こる普遍的な問題である.
われわれの疫学研究では,100歳以上の人(n=84)のうち,上下無歯顎者が約3/4を占め,そのうち約1/3が義歯を使用していなかった.この点からすれば,歯や補綴歯科治療が百寿に貢献しているとは言い難い.一方,90歳の人(n=896)の歯数は年々増え続けている.また,3年毎の会場調査に継続して参加された人には,歯の多い人が多いことから,歯数が超高齢者の健康維持に関連していることが示唆される.口腔機能の個人内変化をみると,咬合力は歯数による影響が強く,加齢による変化は有意ではなかったが,舌圧は歯数に関係なく,加齢によって有意に低下した.
以上のことから,今後は,歯数が多く,口腔衛生管理が自立不能な超高齢者が増え,う蝕や歯周病の治療のニーズが高まると考えられる.また,本学会員には釈迦に説法であるが,終末期に向かって心身状態の低下を伴った口腔乾燥や嚥下機能低下の患者が増え,多職種連携が益々重要になる.
我々としては,超高齢期の歯や口腔機能の問題点を市民に分かりやすく説明し,ライフコースにわたる口腔衛生・口腔機能管理に導く.自立の保たれているうちに,一般的には75歳までには,診療室で歯と義歯の治療を終え衛生管理が容易な状態を確立し,口腔機能低下が必至である要介護期に備える.治療に制約のある訪問治療に過度な期待を抱かせない.これらのことは,歯科医療従事者であれば誰でも考えていることであるが,社会への浸透は十分であるとは言えない.求められるのは,エビデンスに基づいた継続的で強い発信力である.