一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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シンポジウム6
老年歯科医学の観点からの目指すべき病院歯科像

2021年6月13日(日) 13:50 〜 15:50 Line B (ライブ配信)

座長:大野 友久(浜松市リハビリテーション病院)、岩佐 康行(原土井病院 歯科/ 摂食・栄養支援部)

[SY6-3] 周術期口腔管理を通して考える高齢者歯科医療

○松尾 浩一郎1 (1. 東京医科歯科大学大学院地域・福祉口腔機能管理学分野)

【略歴】
1999年 東京医科歯科大学歯学部 卒業
1999年 同 大学院 高齢者歯科学分野 入局
2002年 ジョンズホプキンス大学 医学部 リハビリテーション講座 Post-doctoral Research Fellow
2005年 ジョンズホプキンス大学 医学部 リハビリテーション講座 Assistant Professor
2008年 松本歯科大学 障害者歯科学講座 准教授
2013年 藤田保健衛生大学 医学部 歯科 教授
2018年 藤田医科大学 医学部 歯科・口腔外科学講座 教授
2021年 東京医科歯科大学大学院 地域・福祉口腔機能管理学分野 教授(~現在)
 
Adjunct Assistant Professor, Johns Hopkins University,
愛知学院大学,九州大学,大阪大学 非常勤講師
本邦は,世界でも類を見ない超高齢社会に突入し,医療,介護では,高齢者対策が喫緊の課題として動いている。高齢者は,個体の多様性が高く, 80歳を過ぎてもピンピンしている人もいれば,多数の疾患を有して1日の内服薬が10種類を越えるという方もいる。今後ますます増加する多疾患,多障害を有する高齢者に対応するには,今までの健常者ベースの歯科治療だけでは困難であり,歯科医療に対する概念の再構築が必要であると考える。平均余命の延伸により,健康長寿を見据えた長期的な口腔衛生・機能管理が必要となる一方で,多障害,多疾患を有する高齢者が増加し,外来患者の基礎疾患に注意することも増え,身体,精神障害や後遺症への対応も増加するであろう。訪問歯科診療では,食支援や他職種連携も必須である。これらを踏まえると,超高齢社会では,従来型のジェネラリストやスペシャリストではなく,幾つかのスペシャリティを有したジェネラリストや,他の専門職種と繋がりを持てるスペシャリストなど,新しいタイプの歯科医療者の育成と教育現場の構築が必要と考える。

口腔は,栄養摂取の入口であるとともに,全身の感染症の入口にもなりえる。周術期口腔管理(オーラルマネジメント)とは,感染予防としての口腔ケアだけでなく,口から食べる支援までを含めた,包括的な口腔機能のサポートを意味し,すなわち口腔“衛生”管理と口腔“機能”管理との両側面からのアプローチが不可欠である。これは,狭義の周術期だけでなく,がん治療のどのステージにおいても考慮すべきである。また,周術期口腔管理においても他(多)職種との連携をどのように行うかで患者のQOLが大きく変化する。他職種との情報共有や効率的な診療のためには,依頼箋だけでつながる紙面上の連携ではなく,実際の協働こそが必要である。病院,施設における多職種連携の中に,口腔の専門家である歯科職種が加わることで,オーラルマネジメント(口腔管理)の質が変わる。摂食嚥下障害への対応において,「嚥下」機能の回復だけでなく,義歯や咀嚼も考慮した摂食機能回復に取り組むことで,介入効果は大きく異なり,その後のQOLにも影響を及ぼす。誤嚥性肺炎の予防のための口腔ケアには,看護部と歯科との協働により,効率的なオーラルケアマネジメントが可能となる。

入院患者への歯科治療では,口腔内の問題解決だけでなく,全身疾患や障害に配慮しながら治療を行い,感染症や栄養など全身への影響を考えた歯科治療が必要となる。ここには凝縮された高齢者歯科医療が存在する。そこで,今回は,周術期口腔管理を通して,これからの高齢者歯科医療と人材育成について考えていきたいと思います。