一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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一般演題(口演発表)

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一般口演2 全身管理・全身疾患

2022年6月11日(土) 10:00 〜 11:00 第3会場 (りゅーとぴあ 2F スタジオA)

座長:柏﨑 晴彦(九州大学大学院歯学研究院  口腔顎顔面病態学講座 高齢者歯科学・全身管理歯科学分野)

[O2-02] 薬剤性開咬と思われた、うつ病患者の一例

○梅崎 陽二朗、江頭 留依、山口 真広、内藤 徹 (福岡歯科大学総合歯科学講座高齢者歯科学分野)

【目的】
 精神科疾患の既往歴がある歯科疾患患者は増加傾向にあり、向精神薬を服用している患者が一般歯科に来院することも、近年珍しい事ではない。向精神薬による口渇等の副作用やエピネフリンとの相互作用は歯科医師にも周知されるようになってきたが、錐体外路症状については依然として人口に膾炙していない。今回我々は、抗精神病薬による錐体外路症状の一種として、開咬状態を呈した症例を経験したため若干の考察を加えて報告する。
【症例】
 74歳女性、美容師。X年4月頃より、特に契機なく「うまく咬めない」といった愁訴が出現し、「友人から顎が曲がっていると言われた」との事であった。かかりつけ歯科からの紹介でX年5月に当院初診となった。初診時は独歩で来院したが、やや動作緩慢で手指の振戦を認めた。顔貌は右方偏位しており、開口運動時には更に右方への偏位が認められた。習慣性咬合では開咬状態を呈していたが、無理に中心咬合位を取ると顔貌の右方偏位は解消され、概ね左右対称となった。パノラマX線検査では下顎頭の形態異常を認めなかった。全身既往は乳がん、骨粗鬆症、うつ病で、アナストロゾール、トピエース、リセドロン酸ナトリウム、エチゾラム、トリアゾラム、ミルタザピン、オランザピンを服用していた。薬原性錐体外路症状評価尺度を評価したところ、合計10.5点、概括重症度は3(中等度)であった。薬剤性開咬と診断し、通院中の心療内科にオランザピンの再検討を提案したところ、X年6月に休薬となった。休薬後は顔貌の右方偏位は認めず、自覚的にも他覚的にも主訴の改善が得られた。手指振戦や動作緩慢も改善し、うつ症状の増悪も認めなかった。その後も良好な経過が得られている。
 なお、本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 薬剤性開咬に関する報告は少なく、依然として開咬は顎骨の形態異常と歯槽性に分類される事が多い。抗精神病薬による錐体外路症状として生じる開咬は筋の機能異常によるもので、安易な咬合調整等を避けるためにもより一層の啓発が必要と思われた。過去の文献では、高力価の抗精神病薬での報告が主であるが、非定型抗精神病薬でも、多剤併用や加齢の影響で薬剤性開咬が生じる事があると示唆された。今後、より適切な対応や類型分類等について、症例を重ねて検討していきたい。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)