The 33rd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(口演発表)

一般演題(口演発表) » [一般口演6] 加齢変化・基礎研究2

一般口演6 加齢変化・基礎研究2

Sat. Jun 11, 2022 4:50 PM - 5:40 PM 第3会場 (りゅーとぴあ 2F スタジオA)

座長:梅本 丈二(福岡大学病院摂食嚥下センター)

[O6-05] 咀嚼の評価法を再考する

○井上 誠1,2,3、辻村 恭憲1、真柄 仁2、伊藤 加代子3、髙橋 肇4、竹井 亮4、高田 夏佳5 (1. 新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野、2. 新潟大学医歯学総合病院摂食嚥下機能回復部、3. 新潟大学医歯学総合病院口腔リハビリテーション科、4. 亀田製菓株式会社 お米総合研究所 シーズ開発チーム、5. 一正蒲鉾株式会社技術研究部技術研究課)

【目的】
我々がこれまで得た咀嚼研究の知見を振り返り,ことに要介護高齢者の咀嚼運動を理解する上で,臨床家,介護者,食事を提供する栄養士がもつべき視点について考える.
【方法】
実験1:健常者若年者29名(平均年齢29.7歳)ならびに高齢者14名(同71.9歳)を対象として,米飯8 gを摂取した際の関連筋筋電図,嚥下内視鏡画像記録を行い,さらに咀嚼中の食塊物性を計測した.実験2:健常若年者15名(同31.2歳)を対象として,人工的な口腔乾燥をもたらす目的で硫酸アトロピン1g内服40分後に米菓を摂取してもらい,上記咀嚼動態を記録した.実験3では,咀嚼運動を動作解析によって明らかにすることを目的として,健常若年者20名(同31.0歳)を対象として,米菓を摂取した際の上記ならびに下顎の3次元運動軌跡を記録した.
【結果と考察】
実験1:咀嚼から嚥下までの時間は若年者の方が有意に短かった.このことは食物粉砕,食塊形成能の違い,嚥下開始に向けた何らかのトリガー閾値の違いを示唆するものであったが,時間経過における食塊物性変化に両群間の差はなかった.さらに唾液分泌量と咀嚼時間との間に有意な負の相関が認められ,嚥下を誘発する条件が,食塊物性以外に唾液分泌による口腔内の潤滑性などの口腔内の環境であることが示唆された.実験2:唾液分泌量低下によって口腔乾燥の影響を受けにくかった被検食品(米菓,かまぼこ)のうち,油分を含む米菓は唾液を吸水しにくく,口腔内の湿潤度を奪わないことが影響していると考えられた.一方かまぼこは,咀嚼過程において唾液による食塊形成を経ることなく,ばらばらの状態のまま咽頭に移送されていることが予想された.実験3:油分を豊富に含む米菓と含まない米菓では,後者において食塊形成に必要な顎運動の出現割合が有意に多かった.咀嚼過程を評価し,ことに高齢者に適切な固形食品を提供する上では,その物性のみならず,唾液分泌量やその変化に対する影響,食塊中の粒子の大きさやそのまとまりやすさという視点をもつことが重要である.
(COI 開示:亀田製菓株式会社,一正蒲鉾株式会社)
(新潟大学 倫理審査委員会承認番号 2020-0039,2020-0125)