一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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認定医審査ポスター1

2023年6月16日(金) 12:00 〜 13:30 ポスター会場 (1階 G3)

[認定P-5] ビスフォスフォネート製剤長期服用の骨粗鬆症患者に対して残根上義歯作製により咀嚼能力が改善した症例

○井上 昂也1、柏﨑 晴彦2 (1. 九州大学病院 口腔総合診療科、2. 九州大学病院 高齢者歯科・全身管理歯科)

【緒言・目的】
 ビスフォスフォネート(BP)製剤の長期服用は顎骨壊死リスクがあり,抜歯を困難にする要因となるが,咀嚼の妨げになる不良な歯の残存は口腔機能低下,低栄養の要因となる。食品摂取に必要な咀嚼能力を維持するために,口腔機能回復を図ることは重要である。今回,BP製剤長期服用の骨粗鬆症患者に対し,残根上義歯作製により咀嚼能力が改善し,食品摂取状況と口腔機能の改善がみられた症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 患者:87歳,女性。2021年11月30日,左下臼歯部の補綴物脱離と歯の動揺による食事困難で歯科受診。既往歴:上腕骨近位部骨折,骨粗鬆症,腰椎すべり症,心筋梗塞,高血圧症。口腔内所見:┌4残根状態,上顎両側臼歯部ブリッジに動揺を認めた。全顎的プラーク付着を認め口腔衛生状態不良。初診時に歯が揺れて痛くて食事ができないとの訴えがあり,咀嚼能力を「内田らの摂食状況調査表」にて評価したところ食品摂取可能率は45%であり,多くの食品で摂食困難な状況であった。また口腔機能検査では,口腔衛生状態,咬合力,舌口唇運動機能,舌圧,咀嚼機能で口腔機能低下を認めた。抜歯適応となる動揺歯を認めたが,BP製剤を3年以上服用中であり,休薬期間を設けると早期に咀嚼能力を改善することが困難であった。抜歯後の感染リスクや多数抜歯による患者ストレスの増加,患者が早期の摂食改善を希望していることを考慮し抜歯は行わず,上下顎に残根上義歯を作製し,咀嚼能力改善を図ることとした。並行して歯周基本治療を行った。義歯装着から約1ヶ月後に咀嚼能力の再評価を行った結果,摂食難易度の高い食品で摂食困難が残存したが,食品摂取可能率は60%に増加した。また口腔機能検査の再評価では,数値改善が認められた。義歯完成後,併存疾患と歯周病の関連を説明し,定期的な歯科受診による口腔管理を継続した。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 今回,残根上義歯作製により咀嚼能力が改善したことで,食事のバリエーションが増加し,効率的な栄養摂取が可能となったと考える。また「歯の揺れがないので色々な食べ物を食べられるようになった」との話から,食事満足度が向上したことが伺えた。その後は管理栄養士の効果的な栄養指導につながり,フレイル予防に貢献できたと考える。
(COI開示:なし)(倫理審査対象外)