[認定P-22] 摂食嚥下障害を合併したアルツハイマー型認知症の1例
【緒 言】 アルツハイマー型認知症は認知症の中で半数を占めており,加齢に伴い症例が悪化し摂食嚥下障害も合併しやすい。本症例では摂食嚥下障害により胃瘻であったが,夫の希望による経口摂取への対応に苦慮した症例を経験したので報告する。 【症 例】 67歳の女性。初診日:2013年6月。主訴:口腔衛生管理を希望。既往歴:アルツハイマー型認知症,高血圧症。初診時の身長150cm,体重42kgであった。車いす移乗は可能であったが,言語機能はなく意思疎通は困難であった(FAST:7b)。日常生活自立度はB2及びⅣで,要介護度5であった。なお,本報告の発表については患者の夫から文書による同意を得ている。 【経 過】 初診より口腔衛生管理のために,当センター障がい者歯科に外来通院した。認知症の進行とともに食事動作ができなくなり,2017年より胃瘻となった。主に経管栄養で一部楽しみレベルでゼリー飲料等飲ませていたが,2020年4月に誤嚥性肺炎を罹患して入院後は経口摂取不可となった。夫の希望で楽しみ程度に何か食べさせたいとのことで,2020年10月にVE検査による摂食嚥下機能評価を実施した。身長150cm,体重35kg,BMI:15.6で,生活は昼夜逆転し,身体拘縮も認めた。ゼリー摂取で咽頭への送り込みが不良であった。VE所見では咽頭部に貯留し,嚥下反射の遅延が著明であった。明瞭な誤嚥はなく,痰・分泌物の喀出は可能であった。1日1回5口程度のゼリーの経口摂取を指導した。むせが続くことが多かったために,夫の判断で経口摂取が中断された。口腔衛生管理は2022年3月まで継続していたが,同年9月に発熱により入院したため外来通院が終了となった。 【考 察】 今回,重度アルツハイマー型認知症の胃瘻を伴った摂食嚥下障害の症例を経験した。夫の希望でVE検査を行い,口腔機能低下と嚥下反射の遅延を認めたが,楽しみレベルのゼリー摂取を検討した。誤嚥性肺炎により経口摂取が中断され,廃用萎縮による嚥下機能の低下も大きな影響を及ぼした。介護者である夫は経口摂取をさせたい希望もあったが老老介護による摂取介助の限界もあって,最後は口腔衛生管理を中心に対応することになった。10年間にわたる経過の中で,重度アルツハイマー型認知症に対する摂食嚥下リハビリテーションの難しさを実感した症例であった。(COI開示:なし)(倫理審査対象外)