[認定P-13] 開口拒否を認める要介護高齢者に対し歯科訪問診療で口腔清掃指導,食事指導を実施した1症例
【緒言・目的】現病歴に認知症,既往歴に円蓋部髄膜腫と脳梗塞があり,麻痺を認める。認知症高齢者の日常生活自立度はⅣ,障害高齢者の日常生活自立度は B-2 で,会話などでの意志の疎通は困難であった。また口腔内を確認したところ,部分的な欠損,すれ違い咬合による歯の挺出,食渣や歯石沈着を認めた。家族の要望や障害高齢者および認知症高齢者の日常生活自立度を考慮して,積極的な歯科治療は実施せずに,施設職員による日常の口腔ケアを可能にすることを目的とした。【症例および経過】 歯ブラシを口唇に当てると強く閉口してしまうために,保湿剤を塗布したスポンジブラシを口角から口腔内に入れ,頬粘膜および口腔前庭の脱感作をしてから除石を実施した。下顎前歯部は除石によって動揺を認めるようになったため,スーパーボンドで暫間固定をした。施設職員には食前と口腔ケア前の口腔内マッサージと,歯ブラシとスポンジブラシを併用した口腔ケアを指導した。また左傾斜していた食事姿勢からクッションを利用して真っ直ぐの姿勢にし,食べこぼしや頭部後屈を改善するために,茶碗を吸い飲みに変更した。本報告の発表について,患者家族・施設より同意を得ている。【考察】日常生活が制限されてしまう要因として認知症,脳梗塞後遺症,高齢による衰弱などが挙げられるが,心身レベル低下後の義歯新製を含めた歯科治療は困難な場合が多いうえに,キーパーソンである家族が積極的な歯科治療を望まないケースもあり,対応するための選択肢の幅が狭くなりうる。その中で歯科医師として,各個人の状況に応じた最善策が求められることから,本症例では患者の日常生活自立度を考慮し,家族や施設職員の要望を聴取し相談したうえで介入したことが,施設職員による適切な口腔ケア,食事介助を可能にしたものと考える。(COI 開示:なし) (奥羽大学倫理審査委員会承認番号326)