The 35th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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認定医審査ポスター

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認定医審査ポスター

Fri. Jun 28, 2024 2:40 PM - 4:10 PM ポスター会場 (大ホールC)

[認定P-17] 脳出血後の摂食嚥下障害患者に対し総義歯作製後に食上げし,口腔機能の改善と体重増加に至った1例

○中尾 祐1,2、柏崎 晴彦2 (1. 医療法人福和会 別府歯科医院 訪問診療部、2. 九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 高齢者歯科学・全身管理歯科学分野)

【緒言・目的】
 脳卒中などの入院中に,義歯を使用されず食形態を下げられたまま施設入居に至る症例によく遭遇する。それゆえ食形態の回復が可能となる義歯作製の意義は大きい。今回,脳出血後の嚥下障害患者に対し上顎総義歯を作製し食上げを行い,口腔機能の改善と体重増加を認めた症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 85歳男性。リハビリテーション病院から有料老人ホームに入居時に形のあるものを食べたいとの主訴で,ケアマネジャーからの紹介で初診となった。既往歴は左側視床出血,高血圧症。右上下肢完全麻痺でベッド上にて生活。右顔面に知覚・運動麻痺を認め流涎あり,上顎義歯は入院中使用されておらず装着は不可であった。食形態は,米飯,ペースト食,水分トロミⅠ,スプーンを用い自己にて全量摂取されていた。初診後ミールラウンドと総義歯の作製を開始した。ミールラウンドでは,右鼻腔からのもれ,右口角からの食べこぼしとムセを認めた。上顎総義歯の作製については,Ⅱ級かつ内冠の位置の制限があるため棚で前歯部の咬合を付与し,舌の接触を確認した上で完成させた。義歯装着時に口腔機能精密検査を行い,TCI:72%,口腔内湿潤度:27.3,残存歯数:15本,ODK:pa:3.2/ta:2.6/ka:2.2(回/秒),舌圧:4.0kPa,グルコセンサー:120mg/dl,EAT-10:15点で, 5項目で機能低下を認めた。また,食形態を米飯+一口大に変更し,若干ムセを認めたが食塊形成良好のため形態決定した。リハビリテーションは,舌の筋力・巧緻性の回復を目指しパタカラ,あいうべ体操を中心に行った。6ヶ月後は,TCI:27.7%,口腔内湿潤度:31.2,残存歯数:15本,ODK:pa:4.6/ta:4.0/ka:2.6(回/秒),舌圧:28.0kPa,グルコセンサー:118mg/dl,EAT-10:4点で,該当項目は4項目と改善し,体重は5 kg増加した。なお,本学会の発表について患者本人から文章による同意を得ている。
【考察】
 口腔機能の改善と体重増加の要因は,義歯使用により咀嚼能力が必要な食形態へ変更したことや,摂取カロリーが増加したためと考えられた。毎食がリハビリテーションで,その効果を最大限に引き出すものが義歯であり,歯科医師しかできない重要な食支援ツールであると考えられた。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)