一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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摂食機能療法専門歯科医師審査/更新ポスター

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摂食機能療法専門歯科医師審査ポスター

2024年6月28日(金) 14:40 〜 16:10 ポスター会場 (大ホールC)

[摂食審査P-01] 入院を契機に摂食嚥下障害が顕在化したパーキンソン病患者の機能維持および改善に取り組んだ一例

○市川 陽子1,2 (1. 日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック、2. 日本歯科大学附属病院 口腔リハビリテーション科)

【緒言・目的】
 今回,入院を契機に体重減少し,摂食嚥下障害が顕在化していたパーキンソン病患者の機能維持および改善に取り組んだ。その経過について報告する。なお本発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【症例および経過】
 70歳代の男性。飲み込めないとの訴えで当院に外来受診した。初診より8年前にパーキンソン病と診断され,1年前に心筋梗塞にて入院・加療後,在宅療養開始となった。入院初期に比べ,初診時の体重は12kg減少し,Hoehn&Yahrの重症度は3度,食形態は日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021コード2を摂取しており,発熱はなく, L-dopaは食前含め5回/day服薬されていた。口腔内状況として右側下顎第二大臼歯に咬合痛を認めた。嚥下内視鏡検査にて,安静時に梨状窩に唾液貯留を認め,唾液は一部喉頭侵入していた。嚥下造影検査(以下VF)にてゼリーを摂取させると,舌骨挙上と喉頭蓋反転は不足し,嚥下後,喉頭蓋谷や梨状窩に残留したが誤嚥はみられなかった。臨床的重症度分類 3と診断した。パーキンソン病の影響に,入院による体重減少と廃用が加わり嚥下障害が顕在化していると考えられた。目標を栄養状態および廃用の改善とした。機能以上に嚥下困難感が高かったため,VF画像を用いながらとろみ水による交互嚥下と一口量の調整,咳嗽の必要性を説明した。体重減少に対しては食事摂取方法を指導した。舌運動機能低下に対し,訪問の言語聴覚士と連携して舌訓練等の機能訓練を行った。複数歯の重度歯周炎による咀嚼不良もあり,抜歯後,義歯製作を行った。経過として,初診1週後より食品摂取法の工夫が実施され,5ヵ月後に義歯製作にて口腔内環境も改善し,6ヵ月後に嚥下調整食コード4の摂取ができるようになり,初診時より体重が増加した(52.4→57.8kg)。嚥下困難感の指標としてEAT-10(31点→20点)もやや改善した。唾液誤嚥リスクは依然として高いが,VFにて誤嚥は認めず,現在まで発熱することなく経過している。
【考察】
 摂食嚥下機能検査の結果を客観的に提示し,患者が現状の機能を把握し,その対処法を理解したことで訓練意欲が向上し,廃用部分の改善に繋がった。パーキンソン病患者の体重と予後が関連するとの報告があるが,栄養状態が機能の改善に寄与することも改めて経験した。
COI開示なし
(倫理審査対象外)