[P-105] 重度認知症患者の歯科的対応 -15年間関与した1症例の検討-
【緒言・目的】
認知症患者の歯科的対応は困難な場合も多く,臨床経験の蓄積と共有が必要である。演者(江刺)はこれまで認知症患者の歯科的対応に関する複数の症例を第25回,28回,30回学術大会において報告してきたが,今回は逝去まで15年間にわたって関与した1症例について,その長期経過を検討し,歯科的対応における課題及び意義を示すことを目的に報告する。
【症例および経過】
初診時73歳,女性,グループホーム入居,要介護度4,日常生活自立度(B2,認知症Ⅳ)。残存歯23本(下顎前歯残根状態、右上3・左下3はC2),歯の欠損(上顎2−2、左下4),上顎可撤性義歯使用。食事は常食を全介助で摂取。主訴(家族の希望):下の前歯がない。継続的な口腔ケア。経過:2008年4月より歯科的対応を開始して義歯作製,う蝕処置を行い,月2回訪問による歯科治療およびケアを継続した。その後,次第に食べ物を飲み込まず口腔に溜め込むことが増え,また,義歯破折修理・再製作を繰り返した。2017年10月に刻み食に変更してから一時改善したが,半年後にはペースト食も飲み込まないことが増えてきた。2018年12月に義歯を新製するも装着不能のため使用を中止。食事はペースト食のほか,好きな果物は食べることもあった。2019年,家族は経管栄養等の延命処置を行わず看取る方針とした。その後も日常の口腔ケアは施設スタッフが行いつつ,月2回の歯科的対応を継続した。2022年3月より頸部が後屈し,顎が突出した姿勢で臥床するようになり,常時開口,口呼吸,口腔乾燥が顕著になってきた。著明な歯列の変形が認められ,2023年2月に88歳で逝去した。
なお,本症例は代諾者が報告に同意した。
【考察】
本長期介入症例では,当初は常食を摂取していたものの,次第に嚥下機能が低下した。その都度,義歯修理や食形態の変更,食欲を引き出す援助などにより,一時的な改善を図ることはできた。しかし,臥床姿勢と開口状態の長期化により残存歯が舌側傾斜して上顎歯列弓がV字状に変形した。その後も口腔ケアによって剥離上皮を除去すると気道確保が図られ,低下した血中酸素濃度が一時的に改善することから,歯科的対応を継続した。対象者の全身状態や口腔機能の変化に適した歯科的対応が重要であると考えられた。
(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)
認知症患者の歯科的対応は困難な場合も多く,臨床経験の蓄積と共有が必要である。演者(江刺)はこれまで認知症患者の歯科的対応に関する複数の症例を第25回,28回,30回学術大会において報告してきたが,今回は逝去まで15年間にわたって関与した1症例について,その長期経過を検討し,歯科的対応における課題及び意義を示すことを目的に報告する。
【症例および経過】
初診時73歳,女性,グループホーム入居,要介護度4,日常生活自立度(B2,認知症Ⅳ)。残存歯23本(下顎前歯残根状態、右上3・左下3はC2),歯の欠損(上顎2−2、左下4),上顎可撤性義歯使用。食事は常食を全介助で摂取。主訴(家族の希望):下の前歯がない。継続的な口腔ケア。経過:2008年4月より歯科的対応を開始して義歯作製,う蝕処置を行い,月2回訪問による歯科治療およびケアを継続した。その後,次第に食べ物を飲み込まず口腔に溜め込むことが増え,また,義歯破折修理・再製作を繰り返した。2017年10月に刻み食に変更してから一時改善したが,半年後にはペースト食も飲み込まないことが増えてきた。2018年12月に義歯を新製するも装着不能のため使用を中止。食事はペースト食のほか,好きな果物は食べることもあった。2019年,家族は経管栄養等の延命処置を行わず看取る方針とした。その後も日常の口腔ケアは施設スタッフが行いつつ,月2回の歯科的対応を継続した。2022年3月より頸部が後屈し,顎が突出した姿勢で臥床するようになり,常時開口,口呼吸,口腔乾燥が顕著になってきた。著明な歯列の変形が認められ,2023年2月に88歳で逝去した。
なお,本症例は代諾者が報告に同意した。
【考察】
本長期介入症例では,当初は常食を摂取していたものの,次第に嚥下機能が低下した。その都度,義歯修理や食形態の変更,食欲を引き出す援助などにより,一時的な改善を図ることはできた。しかし,臥床姿勢と開口状態の長期化により残存歯が舌側傾斜して上顎歯列弓がV字状に変形した。その後も口腔ケアによって剥離上皮を除去すると気道確保が図られ,低下した血中酸素濃度が一時的に改善することから,歯科的対応を継続した。対象者の全身状態や口腔機能の変化に適した歯科的対応が重要であると考えられた。
(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)