The 35th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター発表) » 症例・施設-3

症例・施設-3(質疑応答)

Sun. Jun 30, 2024 10:40 AM - 11:40 AM ポスター会場 (大ホールC)

[P-108] 軟口蓋欠損のある患者に対して継続した口腔衛生管理を実施した一例

○坪井 千夏1、中川 晋輔2、東 倫子3、小林 直樹1 (1. 特定医療法人 万成病院 歯科、2. 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 インプラント再生補綴学分野、3. 岡山大学病院スペシャルニーズ歯科センター)

【目的】
 口蓋腫瘍切除後の軟口蓋欠損によって構音困難や摂食嚥下障害,咀嚼障害が引き起こる。今回,軟口蓋欠損とコルサコフ症候群に起因する口腔清掃状態が不良な患者に対して,歯科衛生士の継続的な口腔衛生管理によって肺炎リスクの軽減と患者のQOLが向上した1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 72歳,男性。2013年よりコルサコフ症候群にて入院,2014年1月に主治医より歯科紹介。軟口蓋切除後,口蓋補綴装置が装着され,術部周囲には多量の食物残渣を認めた。口腔清掃不良(PCR:プラーク付着率100%,BOP(歯肉出血)陽性率:40%)のため,歯科衛生士による口腔衛生管理を開始。看護師への状況説明や口腔清掃の促進も行い,患者自身のセルフケアが習慣化された。2023年5月にはPCR44.1%,BOP陽性率7.8%に改善した。また,初診時には45.0kg(BMI:17.1 kg/m2)であった体重も2021年8月には52.0kg(BMI:19.8 kg/m2)まで増加した。しかし,2021年8月に左大腿骨頸部骨折での転院後,誤嚥性肺炎を発症し,絶食・経管栄養となった。経管栄養の期間中,体重は49.0kg(BMI:18.6 kg/m2)まで減少したが,2021年11月に3食経口摂取に移行し,2022年8月には53.1kg(BMI:20.2 kg/m2)まで回復,2023年5月には55.5kg(BMI:21.1 kg/m2)を維持している。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 口腔内環境の悪化は,全身の健康に影響し易感染性を高める。本症例では,歯科衛生士の介入によってPCRおよびBOP陽性率の改善が認められた。また,初診時の体重とBMIは標準未満であったが,現在は標準を満たしている。したがって,誤嚥による肺炎や発熱の発生がなく,経口摂取の継続により体重が維持されていることは,コルサコフ症候群で療養中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上にも寄与していると考えられる。全身状態の悪化により,再び誤嚥性肺炎を発症するリスクは高いと予測されるため,今後も継続した口腔衛生管理が必要である。一方で,患者の心理的側面に配慮した口腔・咽頭腫瘍患者に対する口腔衛生管理の指針確立の必要性を感じた。
 (COI開示:なし)(万成病院 倫理審査委員会承認番号20241)