一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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シンポジウム2
脳を基礎から理解する

2024年6月29日(土) 08:50 〜 10:10 第2会場 (特別会議場)

座長:金澤 学(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔デジタルプロセス学分野)、黒嶋 伸一郎(北海道大学大学院歯学研究院 口腔機能学分野 冠橋義歯補綴学教室)

企画:学術委員会

[SY2-2] 脳を基礎から理解する:リハビリテーションと脳(神経)との関係性

○榊間 春利1 (1. 鹿児島大学医学部保健学科 基礎理学療法学講座)

【略歴】
1991年 金沢大学医療技術短期大学部 卒業
2000年 広島大学医学部保健学研究科修士課程 修了
2000年 鹿児島大学医学部保健学科 助教
2005年 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科博士課程 修了
2006年 京都大学医学部人間健康科学学科 准教授
2008年 鹿児島大学医学部保健学科 准教授
2010年 Medical University of South Carolina 客員研究員
2015年 鹿児島大学医学部保健学科 教授
【抄録(Abstract)】
 加齢に伴う活動性の低下はフレイルやサルコペニア、認知機能低下を惹起させる。有酸素運動は、骨格筋からのmyokineの分泌促進、感覚神経を介した脳への刺激などにより、脳活動を活性化させ、運動機能や精神機能の向上に寄与することが報告されている。歯科領域においても、加齢に伴う脳機能の維持に口腔機能が寄与することが報告されており、咀嚼機能の低下は認知機能低下と関連していることが示されている。咀嚼は噛むことによる運動であり、神経を介して脳内を変化させている。動物実験において、歯の消失は認知機能低下を生じさせ、インプラント治療や豊かな環境で飼育するといった、いわゆるリハビリテーション的介入により、皮質や海馬にける脳内環境を変化させ、認知機能を改善させることが報告されている。
 私はこれまで、リハビリテーションの専門家の立場から「脳保護を考慮した運動療法」について認知症や脳卒中モデル動物を用いた基礎研究を行ってきた。認知症の予防として、運動療法や食事療法など様々な治療が報告されており、咀嚼もその一つとして期待されている。咀嚼と同様に予防的な有酸素運動は海馬にける抗炎症作用、酸化ストレスの軽減、神経栄養因子の発現増加、神経細胞の脱落抑制など脳内環境に影響を及ぼし、認知症の予防効果を発揮する。また、日々の運動習慣により、脳には耐性が生じ、その後の虚血損傷を軽減することが基礎研究で示されており、一般に「プレコンディショニング運動」と言われている。私は歯科が専門ではないが、今回の講演では運動が脳環境に及ぼす影響や脳保護メカニズムについて我々の基礎研究成果を交えてご紹介したい。口腔機能の改善が脳内環境に及ぼす影響に関しては、まだ十分解明されておらず、有酸素運動と同様の変化が生じている可能性があり、今回の講演が少しでも先生方に興味を持っていただければ幸いである。