第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

一般演題(口演) O5群
精神ケア

2018年7月1日(日) 09:05 〜 10:05 第7会場 (2階 蓬莱)

座長:染谷 泰子(帝京平成大学 健康メディカル学部), 座長:丹羽 由美子(愛知医科大学病院)

[O5-3] 術後患者が退院直後に抱く日常生活の不安・困り事

松本 里加 (埼玉医科大学保健医療部看護学科)

【目的】わが国の医療制度は、病院から早期に在宅への移行を推し進めている。2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定により、急性期医療を受ける患者の在院日数は更なる短縮が課題となる。術後患者にとって早期退院は、経済的負担の軽減や早期の社会復帰が期待できる。しかし、以前であれば入院中に受けていたケアを居宅で継続せざるを得ない状況になる。特に全身麻酔下の手術は身体侵襲があり、術後の身体機能の変化が身体的にも心理的にも退院後の生活に影響する可能性が高い。そこで、全身麻酔下で手術を受けた患者を対象に、退院直後の時期において、直面した日常生活の不安や困り事について調査した。【方法】研究対象:全身麻酔下で手術を受け自宅に退院した患者。調査時期:2015年6月~10月。調査内容:基本情報、在院日数、困り事の有無、困り事の内容とその程度、看護師による退院指導の有無とその内容、指導が役立ったかどうか、外来受診と訪問看護の有無。困り事の内容は先行文献を参考に、病気に関する困り事9項目と日常生活に関する困り事9項目計18項目を作成し、5件法で質問した。調査方法:研究対象には、質問紙を退院前日または当日に配布し、退院後14日以内に回答し、郵送返信を依頼した。分析方法:基本情報は性別、在院日数は14日以内と15日以上、年齢は69歳以下と70歳以上、疾患は6項目、術式は4項目に分類し、それらや退院指導、外来受診、訪問看護の有無を困り事の内容の平均点によりMann-WhitneyのU検定、Kruskal-Wallis検定で検討した。統計解析はSPSS(vol.23)を用いてp<0.050を有意とした。倫理的配慮:所属大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した。調査の協力は任意で個人が特定されないことを文書で説明した。【結果】協力を得た施設に220部配布し、79名(回収率35.9%)の回答のうち70名(有効回答率88.6%)を分析対象とした。在院日数は14日以内50名(71.4%)平均11.3日、年齢は69歳以下53名(75.7%)平均58.1歳、性別は男女各35名(50.0%)。傷病は消化器系43名(61.4%)、術式は内視鏡下手術31名(44.3%)が最も多かった。困り事のある患者は42名(60.0%)、退院指導を受けた48名(68.6%)のうち46名(95.8%)は指導が役立ったと回答した。困り事の項目は、在院日数14日以内が15日以上より『傷の痛み』(p=0.002)『医療器具の取り扱い』(p=0.002)『シャワー・入浴』(p=0.004)『嗜好品の制限』(p=0.006)等17項目、女性が男性より『入院前の役割』(p=0.008)『排泄』(p=0014)『食事』(p=0.016)『家族の負担』(p=0.033)等7項目で得点が高く、有意な差がみられた。術式は筋骨系手術で『移動動作』(p=0.029)の得点が高かった。【考察】退院後の困り事は、14日以内が15日以上より17項目で得点が高く、在院日数が少ないと困り事があるという先行研究と一致していた。在院日数の短縮は、患者が生活を再構築するための時間が短縮されている。そのため、医療者は身体的に回復を認めても、術後患者は退院直後に不安や困り事を抱いていたと考えられる。先行研究では高齢者の不安や困り事が大きいとされていたが、年齢による差はなかった。研究対象病院には退院調整部門があり、高齢者には入院時のスクリーニングによって、早期より退院支援された可能性がある。女性の方が7項目で得点が高かったのは、退院直後から家事や育児等生活における役割を担う傾向が考えられる。そのため、術後のセルフケア以外の負担が予測される。この時期は入院前同様の役割遂行が困難なため、不安や困り事が生じたと推測される。