第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(示説)

一般演題(示説) P1群
その他

2018年6月30日(土) 14:40 〜 15:25 ポスター会場 (1階 展示ホール)

座長:桑村 直樹(公益社団法人日本看護協会 看護研修学校)

[P1-6] 高次脳機能障害のある患者に対し熟練看護師が抱く困難とその対処

松本 奈緒1, 菅野 久美2,3 (1.浜松医科大学附属病院, 2.福島県立医科大学看護学部, 3.前浜松医科大学医学部看護学科)

【目的】高次脳機能障害とは、外傷性脳損傷、脳血管障害等により脳に損傷を受け、その後生じた記憶障害、注意障害、社会的行動障害などの認知機能障害等と定義される。近年、その患者数は増加傾向にあり、また、急激な情動コントロールの障害や意欲・発動性が低下などの症状の多様性から、看護師は多くの困難に遭遇していることが考えられる。そこで、高次脳機能障害のある患者に対し、受傷直後からの早期リハビリテーション看護を行う上で、熟練看護師がどのような困難感を抱き、対処しているかを明らかにすることを目的とした。
【方法】研究デザイン:質的記述的研究 対象者:ICUおよび急性期病棟において高次脳機能障害患者の看護を5年以上経験のある看護師、または脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 データ収集方法:研究者の作成したインタビューガイドに基づき、看護実践の中で困難と感じた場面や出来事、思いや考え、対処した行動について半構造化面接を行った。分析方法:面接内容の逐語録を質的データとして、内容分析法に準じて質的帰納的に分析を行った。<倫理的配慮>研究者の所属するA大学の臨床研究倫理委員会の承認を得て実施した。対象候補者を施設の所属長から紹介を受け、研究の趣旨とともに自由意思に基づく研究参加、拒否や中断の自由や不利益の回避、プライバシーの保護、データの管理等について文書と口頭で説明し、同意を得た。
【結果】研究参加者は3名であった。分析の結果、熟練看護師が抱く困難には、【一度恐怖を感じた攻撃的な患者に再度関わらなければならない】【安全を優先するために患者の望まないケアをしなければならない】【業務に追われて患者に必要なケアやリハビリが実施できない】【自分自身の状況を理解できない患者がやむを得ず治療を中断してしまう】【意思決定ができない患者の思いを汲み取ることができていないように思う】【若年の患者には関わりにくい】【家族が患者の状態を正しく受け入れられていない】【家族の要望や苦情をぶつけられ、我慢しつづけなければならない】の8つのカテゴリーが導き出された。また、その困難への対処として、【患者の話を受け止めているという姿勢を分かりやすく示しながら話を聞く】【患者の状態に合わせて適切な対応を使い分ける】【患者の興奮につながるスイッチを避けながら工夫して関わる】【意欲の低下した患者の回復のためにリハビリと生活援助をつなげる】【意思疎通の図れない患者に戸惑う家族へ意図的に関わる】【患者家族の情報を共有するためにチーム全体で連携を取り合うよう努める】【経験から積み上げられた対応の仕方を後輩に繋げる】の7つのカテゴリーが導き出された。
【考察】熟練看護師が抱える困難には、患者からの拒否やマイナスな反応を精神的負担として感じることなどあり、これは、看護師がケアを行う責任や果たすべき役割と患者の認知状態の変化から生じていると考えられた。その対処として、看護師はこれまで積み上げた経験をいかし、患者との関わり方を看護の視野を広げながら模索し、適切な対応につなげていることが考えられた。また、患者の家族の戸惑いや苛立ちを受け止めなくてはならない点も困難と感じていた。その対処として、看護師一人でこの状況を抱えるのではなく、医療チーム間で連携を取りあい、家族の状態を観察しながら意図的に関わっていた。さらに、これらの連携の際に、熟練看護師の持つ知識や技術を後輩に継承していることが考えられた。以上より、患者や家族への意図的な関わり、医療チームの連携強化、知識や技術の継承などの看護実践への具体的な示唆が得られた。