第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

パネルディスカッション2
重症呼吸不全に対するECMO治療のノウハウとチームアプローチ

2018年7月1日(日) 14:50 〜 16:30 第2会場 (5階 小ホール)

座長:渕本 雅昭(東邦大学医療センター大森病院 救命救急センター), 座長:市場 晋吾(日本医科大学付属病院 外科系集中治療科)

[PD2-1] 「看護がECMO治療ですべきこと」―行き場のない治療にさせないために―

亀ケ谷 泰匡 (日本医科大学付属病院 外科系集中治療室)

今回のセッションへの参加にあたり、本学術集会の「安全と安心を信頼に繋ぐ」というテーマについて考えた際、思い浮かべた言葉があった。
「ECMO治療において、最もクリティカルな問題は回路の破綻である。この問題に適切な対応をとることがECMOナースの最も重要な役割の一つである」。
これは、ECMOの国際的な組織であるELSO(Extracorporeal Life Support Organization)の次期会長Mark Ogino,MDから教示された言葉である。この回路の破綻の要因には、人工肺、ポンプの機能不全、カニューレトラブルや回路チューブの破裂、空気混入などが含まれる。ELSOのデータベースによると、成人のRespiratory ECMOで生じた機械関連の合併症の中で、回路チューブの破裂が発生率0.3%で最も少ない。一方で、回路チューブの破裂が生じた場合の生存率は25%で最も低く、いかにクリティカルな問題であるかが分かる。しかしながら、この回路の破綻は多職種によるチームアプローチなくしては、乗り越えられない事象である。そのため、ECMO治療では回路の破綻が患者の生命の危機へ直結することを、治療に携わる医療スタッフが共通認識していなければならない。
では、安全なECMO治療を提供するためにはどのようなチームビルディングが必要なのであろうか。当院では、2011年に医師、臨床工学技士、看護師の多職種からなるECMOチームを発足後、マニュアルやプロトコルの作成、座学やハンズオントレーニングなどの教育体制を確立してきた。また、現在ではECMO搬送にも注力し、院内外の搬送体制の確立に取り組んでいる。当院での経験に触れながら、欧米のECMO specialistといった資格制度がない本邦において、看護師がECMO治療の安全と安心にどこまで寄与できるのか議論していきたい。
また、ECMO治療のチームアプローチを進めていくうえで、考えなくてはならないのが倫理的側面である。ECMOは治療や回復までの時間的猶予をもたらすが、一転、その役割が死までの時間的猶予をもたらすことへと変化する。その変化は、患者や家族のみならず、医療スタッフを巻き込み、複雑な意思決定や倫理的ジレンマをもたらす。
2012年にECMOプロジェクトが開始されて以降、ECMOが多くの関心を集め、看護においても様々な議論がなされるようになった。しかし、ECMO治療に関する倫理的側面についての議論は未だ不十分であり、ECMOチームとしてどのようなアプローチが必要なのか十分な検討が必要である。
世界的には長い歴史のあるECMOであるが、日本ではどこか全く新しい治療方法として扱われている感が否めない。しかし、もうすでに「やりたい看護」から「やらなければならない看護」へと昇華させる時期にきているのではないだろうか。