第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

パネルディスカッション2
重症呼吸不全に対するECMO治療のノウハウとチームアプローチ

2018年7月1日(日) 14:50 〜 16:30 第2会場 (5階 小ホール)

座長:渕本 雅昭(東邦大学医療センター大森病院 救命救急センター), 座長:市場 晋吾(日本医科大学付属病院 外科系集中治療科)

[PD2-2] 「LungRest」を実現する~自然治癒力を最大化するためのケア~

河合 佑亮 (藤田保健衛生大学病院 看護部)

 Respiratory ECMOは呼吸不全に対する究極の対症療法であり、患者が自分の力で回復するまでの間、肺を使用しなくてよい状況を作り出すために呼吸機能を代替する治療法である。その目的は「Lung Rest(肺を休ませる)」であり、患者が自身の自然治癒力をより効果的に発揮できる最適な環境を整えるという考え方が基本となる。これはナイチンゲールが説いた看護の定義に合致するものであり、ECMOは重症呼吸不全患者への究極の看護といっても過言ではない。しかしECMOは万能ではなく、「どこで」「誰が」「何を使って」行うかによってその効果が大きく変わる、きめ細かな管理が必要な治療法である。本発表では、ECMOの真価を発揮するための自施設の取り組みについて報告する。
 看護理論家ヴァージニア・ヘンダーソンや心理学者アブラハム・マズローが記すように、第1に挙げられる患者のニードは、正常な呼吸(生理的ニード)である。この正常な呼吸を満たすためには、十分な酸素供給量を安全に確保することが重要である。ELSO(Extracorporeal Life Support Organization)のガイドラインでは、酸素消費量の3倍以上の酸素供給量を確保することが推奨されている。自施設では、毎日の多職種カンファレンスや定期的な勉強会、マニュアル作成を通して、ECMO管理下の特殊な生理学と管理法の習熟、合併症予防と対策の向上のために多職種が日頃から協働している。また、ベッドサイドにおいて、看護師は人工呼吸患者への基本的な観察事項に加えて、スウィープガス設定や遠心ポンプ回転数と血流量、各種回路圧やECMO脱血酸素飽和度(cSvO2)、血算・凝固や出血状態などの観察に注力し、多職種と密に情報共有している。十分な酸素供給によって正常な呼吸がある程度満たされれば、より高位のニードを満たすため、鎮静薬を漸減し、Awake ECMOに取り組む。肺を休めるのに全身まで休ませる必要はなく、それ自体がPICS(Post Intensive Care Syndrome)のリスクになり、患者のQOLを低下させる。Lung Restの状況下で覚醒していることで、話す、知る、家族と過ごす、本を読む、食べる、座るといった日常生活を送ることや、治療や早期リハビリテーションに患者自身が参加することが可能になり、患者と医療者の双方に大きな益をもたらす。Awakeの方法や安全基準については、人工呼吸患者へのそれに準じるが、ECMO装着下の場合は、ECMO血流量の低下(回路圧の変化)、酸素消費量の増加(cSvO2の低下)やリサキュレーションの増加(cSvO2の上昇)に注意し、これらを安全基準に追加する。一方で、多くのECMO患者は、現存する臓器障害や、人工呼吸管理等の治療関連因子により日常生活が制限され、苦痛を感じている。私たちはただAwakeに取り組むのではなく、患者のそばに寄り添い傾聴することで、その人の一つひとつのニードを理解し、満たし、その喜びを共有する包括的生活支援に取り組むことが大切である。