第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

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重症患者の発熱に対するクーリング(推進派vs慎重派)

2018年7月1日(日) 09:55 〜 10:35 第6会場 (2階 瑞雲)

座長:中田 諭(聖路加国際大学看護学研究科)

[Pro2-2] 重症患者の発熱に対するクーリングは慎重にすべきである

平敷 好史 (地方独立行政法人 那覇市立病院 集中治療室)

本セッションでは、「重症患者の発熱に対するクーリングは慎重にすべきである」との立場から意見を述べる。
重症患者の発熱は、感染性、非感染性を問わず、生体に侵襲が加わることで起きる生体反応の一つである。発熱は、酸素消費量の増大や呼吸数増加など様々な問題を惹起し、患者の不快感は増大する。しかし同時に、発熱により好中球やマクロファージなどが活性化する事で、生体が侵襲からの防御をする反応であるとも考えられている。
ICUにおける発熱は、重症患者の多くで見られるバイタルサインの変調の一つであり、我々看護師も発熱を悪者視してきた。発熱がない状態は侵襲が終息化したと認識され、なんとかして解熱を得ようと経験則的に行ってきた介入がクーリングである。クーリングによって解熱を得られたということは、患者が侵襲からの回復過程にある、もしくは、看護師がクーリングという介入を行うことにより患者の回復の一助になったという希望的観測を持っている事も事実であり、わずか1~2℃の体温の変動に一喜一憂しながら看護業務を行っている現状がある。
確かに、氷嚢やブランケットを患者の体表や当て皮膚表面や鼠径、腋窩などの動脈を冷却することで、解熱という目的を達成しうる可能性はある。しかしそれは、寒冷反応を抑制するための深い鎮静が必要となり、鎮静を行わなければ寒冷反応を惹起し、むしろ酸素消費量や換気量は増大する。
健常人の場合、腋窩や鼠径部などの局所に氷嚢が接して不快に感じれば、氷嚢の接触位置をずらす、または氷嚢を止めるなどの選択ができ行動ができる。しかし重症患者の場合、人工呼吸器が装着され、自らの意志では自由に動けないことが多い。そのため長時間、局所に氷嚢が接している患者は不快であると言うことは容易に推測できる。
奇しくも、近年では人工呼吸器装着患者において、早期の抜管のため“なるべく浅い鎮静を”という時代が到来していることは論を俟たない。となれば、クーリングのための鎮静をするということは、本末転倒であり、重症患者にとってクーリングは、現実的には実施困難であり有益であるとは言い難い。
また、例えクーリングで解熱を得られたとしても、それが本当に患者の状況を好転させているのかは疑問符がつく。なぜなら、今日においても、どのような病態に対して、どの程度までの発熱が生体にとって有益か不利益であるか、最も基本的な命題が未だ解明できていないからである。その為、一律に平熱を得る目的での“重症患者の発熱に対するクーリングは慎重にすべきである”と述べられる。