第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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シンポジウム

シンポジウム1
チーム医療の充実と安全管理の成果 チームステップスの構築

Sat. Jun 30, 2018 3:40 PM - 5:40 PM 第1会場 (5階 大ホール)

座長:道又 元裕(杏林大学医学部附属病院 看護部), 座長:久間 朝子(福岡大学病院看護部 救命救急センター)

[S1-4] 医療安全管理者の立場からチームトレーニングの導入と効果を考える

荒井 有美 (北里大学病院 医療の質・安全推進室)

北里大学病院では、2014年6月に「チームSTEPPS」を導入し,2017年11月までに約80回開催し2800名近くの参加があった。本題では、当院におけるチームSTEPPS導入の経緯ならびにその効果について報告する。
当院では、重大な有害事象を経験したことを契機とし、潜在的な安全管理上の課題を抽出する目的で、2012年12月に「医療における安全文化に関する調査」を実施した。この調査結果から「部署間でのチームワーク」に問題があることが明らかになり、改善を図る方策としてチームトレーニングを導入した。なお、この調査方法は、米国AHRQ(Agency for healthcare Research and Quality)が提唱し、国立保健医療科学院によって有用性が証明されたものである。
チームトレーニングの導入に先行して、2014年3月に職員2名(医療安全管理者1名、医師(Rapid Response Team:RRT)1名)を米国AHRQ主催のチームSTEPPS研修受講へ派遣した。その後、研修の実施計画ならびに具体的な研修内容を検討などの準備期間を経て、2014年6月より開始した。研修対象者は、職種や職位を限定せず、全職員とした。また、研修の効果評価指標は、インシデント全報告数、インシデント影響度レベル0(エラーや医薬品・医療用具の不具合が見られたが、患者には実施されなかった)報告数、およびRRT要請件数とした。前出の「医療における安全文化に関する調査」を2015年に再び実施した。その結果、「部署間でのチームワーク」について改善が認められた。
われわれ医療者は、従来、医療の中心は患者であることを認識しながら、それぞれの職域において最善を尽くしてきた。今日では、医療の高度化や複雑化に対応するための一つの方策として、チーム医療という概念が推し進められている。これは多職種が連携を密にし、専門家として協働していくことよって、高度な医療を提供し、安全な医療を実践するという考え方である。このようなチームワークの重要性は、WHO患者安全カリキュラムガイド多職種版2011にも明確に示されている。一方、職種間の情報共有やコミュニケーション不足等に起因したエラーが発生している。
「チームSTEPPS」は、米国国防総省の研究助成によって、1995年頃よりチームトレーニングの研究が始められ、AHRQとの協力でエビデンスに基づいて開発されたものである。その後、米国連邦政府の事業として全米に拡がり、医療チームのパフォーマンスを向上させ、医療安全の推進・質の向上に成果を挙げていると言われている。人間だからこそ起こし得る「うっかり」や、「無意識に」といった、ヒューマンエラーはたびたび問題となる。これらを防止するには、個人が細心の注意を払うだけでは充分ではなく、チームで改善に取り組むことも重要である。誰が何をすべきかを、職域を越え医療チーム全体で考え続けることが重要と考えられ、今日の医療においてチームトレーニングは必要不可欠であるといえる。