第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD3] 重症患者の生活支援“食べる”機能を守るチャレンジ

2019年6月15日(土) 16:40 〜 18:00 第4会場 (1F 中会議室)

座長:亀井 有子(市立岸和田市民病院)、西村 祐枝(岡山市立総合医療センター岡山市立市民病院)

17:10 〜 17:25

[PD3-3] 大分大学ICU入室患者に対する“食べる”機能を守るチャレンジ~集中治療医の立場から~

○後藤 孝治1 (1. 大分大学医学部附属病院 集中治療部)

キーワード:経腸栄養

 大分大学医学部附属病院集中治療部(当ICU)は,1985年の開設以来,全身管理を専門にしている麻酔科医が集中治療を担う“closed ICU”システムで運営している。これまで我々が治療した重症患者数はすでに14,000例を超しており,大分県下最大規模の急性期医療の「最後の砦」として重要な役割を担っている。入室患者の約7割は当院の定例手術後患者で,残り約3割を院内または院外からの重症救急患者が占める。
 当ICUにおける敗血症性ショック患者の入室症例数は年間約50名程度である。当ICUにおける敗血症患者の28日死亡率は, 2015年:8.9%(4/45),2016年:8.7%(4/46) ,2017年:9.5%(4/42)と良好に推移しているが,ガイドラインに準じた敗血症の標準的治療とともに積極的に早期経腸栄養を施行している。
 敗血症性ショックのような重症患者では,侵襲に加えて絶食による腸粘膜の萎縮や透過性亢進のために腸管の免疫防御機能の低下し,病原微生物や産生された毒素などによって全身性に過剰な炎症を引き起こし,予後を悪化させる原因となる。経腸栄養は,腸管機能と腸内細菌叢を正常に維持することで免疫防御機構を改善させ,経静脈栄養よりも死亡率や感染症発症率を改善させることができ,さらに安価なため医療費の削減にもなることから,ICU管理を要する敗血症に対して経腸栄養を優先することが強く推奨されている。さらに,経腸栄養の早期施行は腸管絨毛に対し消化管内腔からのエネルギー補充,腸管血流の増加により,腸管の免疫組織を保持・刺激し,これらが全身の免疫賦活につながり,その結果感染症発症を防ぐことで予後を改善することから,敗血症発症後,数日の内に経口摂取で十分な量のエネルギーを摂取出来ない見込みである場合は,早期(48時間以内)に経腸栄養を開始することが推奨されている。
 では,ICUで経口的に食べることができずに経鼻胃管からの栄養剤投与でも逆流してしまうような患者に対し,どのようにして“食べる”機能を守るのであろうか?
 ICUに入室中の重症患者の多くは,血行動態不安定(特に高用量カテコラミン使用中やIABP・PCPS・VVECMOなど機械的補助施行中),持続鎮静中(特に筋弛緩薬使用中)などによって経胃栄養が逆流してしまうような患者が多い。また,そのような状況になくても胃残が多く口腔内に逆流し誤嚥のリスクが高い患者も多く経験する。経鼻胃管から投与した栄養剤が逆流するということは,すなわち,「経腸栄養ができてない=食べていない」ということであり,安定した経腸栄養を確立するため幽門を越えた空腸内にチューブ先端を留置することが必要になる。方法として,内視鏡法,聴診法,超音波法,透視法などがあるが,それぞれに長所と短所がある。
 当ICUでは2007年以前までは胃内排泄遅延による経腸栄養逆流症例に対して内視鏡下に十二指腸・空腸内へ経腸栄養用チューブを挿入していたが,内視鏡抜去時のチューブ抜去や蠕動に伴うチューブ先端の胃内脱出などの問題があった。しかし,2007年以降からは内視鏡下にバルーン付き十二指腸チューブを使用することで全例において容易に早期経腸栄養の確立が可能となっている。
 このように,重症患者の“食べる”機能を守るチャレンジとして早期に経腸栄養を開始することは当然であるが,臨床の場では様々な問題があり,患者背景や各施設の状況に合わせた工夫をすることも必要であろう。