第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY2] クリティカルの臨床指標をPDCAサイクルに載せる

2019年6月15日(土) 16:50 〜 18:00 メイン会場 (B1F フィルハーモニアホール)

座長:中村 美鈴(東京慈恵会医科大学)、中田 諭(聖路加国際大学)

17:05 〜 17:20

[SY2-2] 不確実な臨床を生き抜くための医療の質改善活動と指標分析

○櫻本 秀明1 (1. 茨城キリスト教大学 看護学部看護学科)

キーワード:医療の質改善、Quality Improvement

 近年、膨大な量の論文が作成され、エビデンスはガイドラインとしてまとめられ活用されている。とはいえ、現在の集中治療は、未だ不確実なデータでつくられた、つり橋をわたっている最中にあるのではないか。例えば、アメリカの循環器学会であるAmerican Heart Association:AHAのガイドラインでは、2006年の発表時に最も高い推奨を受けた治療が、2013年のアップデート時に、合わせて2割も変更をされている(推奨度を下げられたか、全く逆の推奨、はたまた削除)1)。AHAは循環器系、内科系のデータを多く扱う集中治療のような臨床よりも研究データを蓄積しやすい土壌にあると言える。ときをへて時代が変われば、より確実な医療を提供できるだろうが、少なくとも現在はAHAですら20%も推奨が変わる時代に生きている。さらに、ガイドラインが作られた年には十分な研究結果が揃っていないことも多く、あるケア・治療方法の本当の効果はわからないといった事も多くおこる。特に、看護に関連した事柄であればなおさらではないだろうか。
 したがって、この不確実な時代、我々が行う医療は、本当に効果があるのか半信半疑で実践する必要があるように思う。このとき、もっとも大事なのは介入を取りいれた結果、臨床はどう変わったのか(効果があるのか、害はないのか)よく観察して評価することであると考えている。いわゆるQuality indicator(または Improvement :QI)は、各施設における実践の根拠(エビデンス)であるとも言える。
 さらに、我々の最終目標はより効果的に臨床のアウトカム(死亡率からQOLまで様々)を改善することにある。これは何も自施設に限った事柄ではない。したがって、臨床改善活動での工夫や得られたQIデータを学会などで他の施設の人と共有・比較し、日本全体で質の改善を目指す、そうした取り組みが必要ではないだろうか。例えば、米国クリティカルケア看護学会などでは研究の発表とは別に、クリエーティブソリューション(creative solutions)と呼ばれるこうした臨床での質の改善活動やちょっとした工夫を共有し合う場や、医療の質指標などを使った各医療施設のICUを表彰する仕組みが存在する。こうした臨床の質改善活動やそこでの工夫は、研究というには大げさであるが、論文にはならない生きた知識が眠っている場合が多く、実践活動の役に立つことが多いのではないかと思う。したがって、今後、多くの施設でPDCAサイクルをまわせるようなサポートを組織的に提供する仕組みや、行われたQI結果や臨床での工夫を学会で共有する場所作りなどが重要ではないかと考えている。このシンポジウムの場をお借りして、こうしたことに関して考えてみたい。

1)Neuman, M.D., et al., Durability of class I American College of Cardiology/American Heart Association clinical practice guideline recommendations. JAMA, 2014. 311(20): p. 2092-2100.