第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY5] PADISガイドラインの概要と現場活用

2019年6月16日(日) 10:40 〜 11:50 第1会場 (2F レセプションホール)

座長:小池 伸享(前橋赤十字病院)、古厩 智美(さいたま赤十字病院)

10:55 〜 11:10

[SY5-2] PADISガイドラインはcomfortケアの追及を促している
~不穏・せん妄に焦点をあてて~

○古賀 雄二1 (1. 川崎医療福祉大学保健看護学科)

キーワード:せん妄

 米国集中治療医学会が示したPADガイドライン(2013年)とPADISガイドライン(2018年)の違いは、大きく2つある。1つ目は不動(Immobility)と睡眠障害(Sleep disturbance)の要素が追加されたことであり、2つ目は全ての要素に対して非薬理ケアが具体化し重要性が強調されたことであり、これらがPADISガイドラインの新規性と考える。しかし、J-PADガイドライン(日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン,日本集中治療医学会,2013年)に対するPADISガイドラインの新規性は、さほど多くはないとも考える。
 PADISの不穏とせん妄の項目について概説するが、PADISガイドラインを参考にする上で留意すべき点として、薬剤使用に関する項目については日本の用法・用量に基づくJ-PADガイドラインの推奨事項も参照しながら、各施設の運用に参考にするとよいと考える。不穏(Agitation)については、Light sedation(浅い鎮静)が推奨されるとの方向性は変わらず、鎮静薬の種類に関する推奨もあった。せん妄(Delirium)については、妥当性のあるツールでのせん妄評価に関する推奨、せん妄予防薬の使用法に関する推奨、せん妄治療薬に関する推奨、せん妄予防に高照度療法を行わないことに関する推奨などがあった。また、多角的介入として調整可能なせん妄リスクファクターの低減、認知機能改善、睡眠の最適化、不動の低減、視聴覚の維持・改善なども推奨例として示された。そして、特筆すべきは、多角的介入とは、PADISガイドラインに今回示した項目だけではないと明記されていることである。
 多角的介入はPADの枠組みに限らず、睡眠(Sleep)の最適化、不動(Immobility)の低減も含めており、PADISの各要素を包括的に管理することを求めている。そして、包括的管理のためにはPADガイドラインから続くPatient centered(患者中心)の概念をもとに、個別性をもってPADIS管理を阻害する因子を追及することであると考える。特に看護師は、生活という枠組みで介入可能な阻害因子を追及することが大切であり、その因子がPADISガイドラインでは「睡眠を阻害すると患者が報告した因子」としてまとめられている。それらは、環境因子、病態生理因子、ケア関連因子、精神的因子に分けられているが、そのすべてに看護師は日常的に関わっている因子であり、多角的介入の対象となり得る。
 また、個別性とは、「あらゆる刺激は快(comfort)にも不快(discomfort)にもなる」ということであると考える。あらゆる刺激は医原性リスクになり得るという、ABCDEバンドルの基本概念に則り、患者のニードを捉えるために全人的(身体的・精神的・社会的・霊的)な関心を患者・家族に寄せること(holistic interest bundle: HIバンドル)が大切であり、各施設の状況において実行可能性の検討を行うことが、結果として不穏・せん妄ケアになり得ると考える。