第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題(口演)

[O2] 呼吸・循環

[O2-3] 人工呼吸器装着場面における熟練看護師の観察の特徴

○岡根 利津1、長谷川 智之1 (1. 三重県立看護大学)

Keywords:人工呼吸器、熟練看護師、観察、眼球運動

【目的】本研究の目的は、人工呼吸器装着場面における熟練看護師の観察について眼球運動を用いて定量的に明らかにし、2年目看護師との比較からその特徴を可視化することである。
【方法】1) 研究参加者:集中治療領域の部署に勤務する看護師経験2年目の看護師(以下、2年目とする)8名と、同部署に勤務する集中ケア認定看護師/救急看護認定看護師/急性•重症患者看護専門看護師のいずれかの資格を有する看護師(以下、熟練とする)8名を対象とした。2) 実験手順:実験は実験室にて行い、参加者は椅子に着席し、帽子型の眼球運動測定装置(EMR-8B、(株)ナックイメージテクノロジー)を装着した状態で、頭部をヘッドレストに固定した。その状態で、84.5cm前方の液晶画面に提示された映像を観察した。実験課題は、人工呼吸器を装着した70代の女性がベッド上に臥床している様子を模擬患者で再現した動画であり、安静時と状態変化時の2場面を設定した。まず事例文をスライド2枚で提示し、読み終わったことを口頭で確認してから映像の観察を開始した。映像は、各場面30秒間ずつ提示し、画面の切り替えの際に1秒間のインターバルを設定した。3) 分析方法:画像の中に、注視領域として【顔】【呼吸器:画面】【呼吸器:回路】【モニター】【上半身・上肢】【下半身】【環境】の7領域を設定した。本研究では、状態変化時の各領域における注視時間、注視回数、視線移動回数を経験年数で比較し、t検定を行った。有意水準は5%とした。4) 倫理的配慮:三重県立看護大学研究倫理審査会の承認を得て実施した。
【結果】注視時間:各領域におけるt検定の結果、すべての領域において2年目と熟練に有意な差は認められなかった。注視回数:各領域におけるt検定の結果、【顔】領域のみ、2年目は8.63±1.92回、熟練は12.75±4.65回であり、有意差を認めた。しかし、その他の領域では有意な差は認められなかった。視線移動回数:注視回数で有意差を認めた【顔】を中心とした視線移動回数は、【顔】と【呼吸器:画面】の双方向の視線移動回数において、2年目は8.63±1.92回、熟練は12.75±4.65回であり、有意差を認めた。しかし、【顔】とその他の領域における視線移動回数に有意な差は認められなかった。
【考察】人工呼吸器装着場面における熟練看護師の観察から、熟練看護師は、患者に状態変化が生じた際には、患者の顔を基点として情報をより迅速に取り込んでいること、さらに、顔と呼吸器の画面からの情報を関連させながら重点的に取り込んでいるという特徴が明らかとなった。
 先行研究において、クリティカルケアに携わる熟練看護師の技能について、中藤らは、患者の身体的な反応と同時に医療機器を最大限に活用することを明らかにしており、また福田らは、状況に応じて対応すべき事柄を瞬時に見極め的確な行為をすることを質的に明らかにしている。本研究の結果は、これらの熟練看護師の技能の一部を定量的な側面からとらえたものであり、熟練看護師の意図的な観察が可視化されたものであると考える。
 熟練看護師の観察の特徴が定量的に明らかになることで、人工呼吸器装着中の患者の観察において、網羅的な教育にとどまらず、状況の変化に応じた観察内容やその方法などに関する具体的な教育が可能となり、多様な観察を効率的に習得するための教育の構築につながると考える。